別府=温泉というイメージが強い人が多いのではないだろうか?
別府には温泉以外の秀でた「技術」、例えば竹細工やつげ細工の技術や、紙器加工技術など、ニッチな分野で業界を切り拓く技術力を持っている会社・事業が数多く存在する。今回は、シール・ラベル印刷で業界を牽引する会社に、私、串田が取材した。
有限会社エイコー印刷は、別府市古市町に位置する、シール・ラベル印刷を専門に手がける印刷会社である。
大分県のみならず日本全国にクライアントを持ち、食品や化粧品、精密機器や医薬品に至るまで、様々なシール・ラベルを製造している。
エイコー印刷の1番の魅力はずばり、技術力である。技術者9名に対して機械設備は21台。一見過剰設備にもみえるが、多能工化した技術者が阿吽の呼吸で連携、稼働させている。印刷後の最終チェックでは4000万画素のカメラを使って品質を確認するなど慎重な作業を行っている。
エイコー印刷の専門性の高い技術は同業者の中でも有名であり、他社では扱うことのできない案件が彼らから回ってくることもあるのだという。つまり群を抜いた技術がここ別府で息づいているのだ。
一体どんな人がこの会社を率いているのだろう。
有限会社エイコー印刷専務取締役の安部秀徳さん
有限会社エイコー印刷専務取締役の安部さんは別府市で育った。
福岡で過ごした大学時代、テキスト代がとても高いことに、そしてそのテキストをロクに読まずに捨てていくことに疑問を感じ、あるアイデアが頭に浮かんだという。
「中古教科書の販売の仲介をしよう。環境保全にもなるし、上級生と下級生の関係構築にも貢献できるのではないか。」
ゼミに来ていたとある物流会社の社長にその案をプレゼンテーションしたところ、「システムもチラシも全部作ってあげるから思う存分やってみなさい」と支援を受けられることになり、数ヶ月でプロジェクト化した。ところが、学校の敷地内でチラシを配っていたところ、学校関係者の理解を得られず学内での広報活動を禁止されてしまった。「学生のためになる活動が許可されないなんてどうかしている」と気持ちを高ぶらせて、「敷地外なら文句は言われないだろう」と考え、学校の門の前でチラシを配った
「自分のアイデアを実行し、止められてもやりぬく。現在の勢いと人間力は大学時代に形成されたのか」私はそう思った。
大学卒業後、安部さんは株式会社毎日コミュ二ケーションズ(現株式会社マイナビ)に入社し、東京本社で5年間営業職を務めた。
町工場から大手企業まで、様々な会社を相手に営業を重ねた。自分が受注したプロジェクトが、翌日の日本経済新聞に掲載されたこともあり、「自分は経済の中心にいるんだ」と強く感じたという。
その後、父親(現社長)の会社を継ぐために別府に戻ることなった。実は手先が不器用で機械作業に慣れることができず、周りからの目を気にする毎日。しかし、ある日、1つのアイデアが安部さんの頭に浮かんだ。
「全国の同業者を集めたFacebookのコミュニティを作って自分たちの技術を紹介し合い、お互いを助け合える場があったら面白いのではないか。」
約50人を集めることに成功し、この中で様々な知識を身につけることができた。その身につけた知識をもとに考え出した原理を、問題を抱える現場スタッフに伝えることで、問題解決に貢献できたそう。手先は不器用でも、原理原則に基づいて体系立てた知識や技術を伝えることで貢献できることを知った安部さんは、社内研修用の資料を自作。職人の肌感覚で教えていた従来の教育体制を、技術の見える化によって理屈で学べるシステムにして変えていった。
現在は、エイコー印刷が以前から持つ専門性の高い技術を、現代のニーズに合わせて発信していく役割を担っている。
安部さんの経歴のお話を伺った後に、工場の様子を見学させていただいた。
機械や部品、一つ一つの特徴を面白く話す安部さん(右)
工場の壁に貼ってある一枚の紙が目に留まった。
啓発の張り紙。3番に「残業ゼロ」と書かれている
エイコー印刷の社員の平均年齢は約30歳。男性も女性も区別なく雇用されていることや、生き生きと作業をする彼らの姿が印象的だった。この温かい職場環境はどのようにして作られているのだろう。
「やってて心の底から楽しんでいないと仕事は面白くない。だからうちの会社は営業の売上目標も残業の義務もない。色んなものを犠牲にしてストレス抱えて働くよりも、自分が死ぬときに幸せだったと思えるような人生を目指すべきだ。」
安部さんのこの言葉を聞いて、私は気づいた。自分が楽しいと思えることに熱中することが、いかに幸せなのかということを。
この安部さんの価値観が、エイコー印刷の「働きやすい環境」を作り出しているのだと強く感じた。
そんなエイコー印刷は2020年、現代のニーズに合う、世界初の製品を開発した。
その名も「HINODERIX(ヒノデリクス)」。
抗ウイルス・抗菌の両面においてSIAAマークを取得した、世界初のシール・ラベル商品群である。
HINODERIXの品質を証明する証書
トイレットペーパーホルダー等、トイレや洗面所などでよく目にするこのSIAAマークだが、このマークは、一般社団法人抗菌製品技術協議会が制定した「性能・安全性・適切な表示」におけるテストをクリアした製品にのみ、表示が許されている。
HINODERIXは、リケンテクノス社のRIKEGUARD®をトップコートに活用しており、抗ウィルス・抗菌の効果はなんと約10年間も持続する。また、シールタイプの製品のため、好きなようにカスタマイズし、様々な場所に貼ることができる。
私も実際に触ってみた。
HINODERIXの表面を拡大
表面はつやつやしているように見えるが、触ってみると意外と指がすべらない。シール同士を合わせてみても、つるっと滑るのではなくピタッと密着する。見た目とのギャップに驚いた。このHINODERIXの確かな抗ウイルス・抗菌性能、汎用性、そして持続性が認められ、すでに多くの場所で採用されている。
大分銀行のATMタッチパネルディスプレイにも採用
大分空港の中でもあらゆる場所にHINODERIXを見つけることができる
生活に身近な「手荷物用カート」の持ち手部分
足元に不安がある方には救いの手となる、階段の手すり
様々な人が行き交うバスセンター。チケット券売機のボタン部分にも貼られていて安心だ
今後、この製品をどのようにしていきたいか、安部さんに聞いてみた。
「『温泉はついでで、おたくのHINODERIXに興味があるから別府に来た。』と、別府が”HINODERIX生誕の地”として知られていくようにしたい」
安部さんの語気が強まる。
「別府の産業の多様性を、この機会に前面に押し出していきたいんですよ。そのために、僕らが頑張っていかなきゃね」
世界各国の人々が持ち込んできた異文化や、産業の後継者のパワーがみなぎるここ別府で生まれたHINODERIXが、この暗いコロナ禍の社会を日の出のように、明るく照らしてくれるだろう。
エイコー印刷社屋前で、安部さんと。楽しくてあっという間だった
安部さんのお話を聞いて、「一度きりの人生。自分のやりたいことに熱中し、楽しみながら働くことのできる仕事につきたい。」と強く感じた。私は現在、就職活動に向けて自分の将来について深く考えることが多い。自分自身を深く見つめ、後悔のない選択をしたいと改めて思った。また別府で生まれた世界初の抗菌シールが、今後世界中で利用されることで、別府の製造業のすばらしさが知られていくだろうと確信した。これからも別府の産業を世界に発信していけるよう、ライターとして記事を書いていきたいと思う。
大学では交換留学生をサポートをする団体の部署リーダーを勤め、国際交流に参加。エコ啓発のサークルにも加入。大学外では国際教育会社でのインターンを経験。
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