JR別府駅から北側へ進むこと3〜4分。大きな鳥のペイントや小さな額縁が飾られ、少し不思議な雰囲気が漂っている「北高架商店街」があります。
以前は飲み屋街として栄えたという場所。今は地元の人たちに加え、立命館アジア太平洋大学(以下、APU)の学生を中心に若い人たちが集い、賑わいをみせています。
古くからの個性的なお店と、現役大学生による新たな出店が人を呼び寄せ、商店街の活性化を推し進めているようです。
観光客、地元民、留学生、大学生……多種多様な人々が集まる別府でお店を開くのに、必要なものとはなんでしょうか。
「KURUKURU」は、雑貨を中心としたアーティストたちの作品を販売するこぢんまりとした店舗。個性的でインパクトのあるもの、可愛らしいもの、思わずニヤリと頬がゆるむものなど、見ていて飽きないラインナップです。
店の向かいには広いフリースペースがあり、定期的に個展や展覧会が開かれています。個展を開くのは、地元の小学生や留学生など多種多様な人たち。年齢・性別・国籍など関係なく、それぞれの個性豊かな作品が並ぶのが特徴です。
店主は現役APU生で大阪出身の山中美季さん。
「好きでやりたいことを持っている人」が「好きなことをできる場所」を作りたい。そんな想いをかたちにしたのが「KURUKURU」です。
APU生や地元の人たちと一緒にマルシェを開催したことをきっかけに、定期的に作品を展示したり、販売したりできる場所が欲しいと考えはじめました。
そんなとき、店舗を管理する企業から「大学生が集まる場所にしたい」と声をかけてくれたそうです。アーティストたちの発表の場を作りたい山中さんと、商店街を活性化させたい企業の思いが合致して、お店がオープンしたのです。
山中さんが「北高架商店街」の存在を知ったのは、まったくの偶然からでした。大分市のオーガニックマーケットで野菜を選んでいるとき、隣りに居合わせた人と仲良くなり、その人に別府市内を案内され、商店街の存在を知ったそうです。
北高架商店街のお店『ONtheON』の店主・温(オン)さんと意気投合したことも、出店の大きなポイントになりました。
「北高架商店街は、身内に囲まれているような安心感と、ウエルカムな雰囲気があります。周りの大人たちがサポートしてくれるから、心強いですね。この場所を知らなかったら、元々興味のあった農業に専念していたと思います。
洋服・カレー・イラスト……好きなことがある人はたくさんいます。その人たちのために、自分にできることはないか考えたらこうなりました。発表の場が欲しいというニーズを感じるので、お店をやっています。
変な大人に出会う機会をつくって『いろんな生き方があるよ』と知らせたいですね。それによって、自分より下の世代が『人生やっていける』と思って欲しいんです」
山中さんの、企業の、そしてアーティストたちの想いが重なり、人やモノや空気が「くるくる」と循環する場が誕生しています。
■KURUKURU
https://www.instagram.com/apubeppu_kurukuru_market/
インスタグラム:@apubeppu_kurukuru_market
決まった店舗を持たず、さまざまな場所で料理を提供する「スパイスごはん Poni」。店主の藤江将真さんは、北海道出身のAPU3年生で、2021年4月にお店をオープンしました。
メニューは、ビリヤニやカレー、タンドリーチキンなど。インドやスリランカ料理をベースに、スパイスを加減し、味噌やだしを使って優しい味付けにしています。「食べたことのないもの、今までにないものをいろんな人に提供したい」という思いが根底に流れています。
先に紹介した「KURUKURU」の山中美季さんと知り合いになり誘われたことから、マルシェや「北高架商店街」にあるいくつかの店舗内で、営業をスタート。2021年7月にはAPU卒業生が営む「創作割烹 沙ゐ佳」とコラボしてイベント出店も果たしました。
「北高架商店街は、個人商店がたくさんあります。ずっと昔からある店舗と、大学生が手掛けているお店も多いという印象です。全体的に夜より昼がメインで、僕が提供するものはご飯なので相性がいいと思いました。
以前からよく通っていて、大学生みんなで集まって話をする場所でもあるんです。そんな場所に参加して盛り上げたいという想いもありました」と、ここでお店を運営する理由を教えてくれました。
テイクアウトがメインで、学生でも開業資金が大きくない状況から続けてきたため、コロナの影響はそれほど受けていないという藤江さん。「今はいろんな人に知ってもらう時期」と捉え、SNSを活用したPRを続けています。インスタグラムのストーリーに投稿してくれた人にはディスカウントするなど、学生客にアプローチする方法を模索中です。
今後は料理をレトルト商品化し、オンライン販売で「もっと遠くの人にも届けたい」と意欲を燃やします。
■スパイスごはん Poni
インスタグラム:@poni_spicegohan
昼はカフェ、夜はバーに変貌する「OFFICE & SAKABA フッド」は、オープンなスペース。商店街通り側の壁を取り払ってあるため、開放的で居心地のよい空間が広がっています。お店の2階は近々、コワーキングスペースとして運営を開始する予定だそうです。
広いスペースを利用したイベントも開催しています。県外と別府のアーティストや調理人がコラボした企画や、APUの留学生によるタイ料理店のイベントなど、大勢の人で賑わいました。コラボするのは、主に「ごはん系」と「アート系」。アート系のコラボでは、BEPPU PROJECTが主催する「ベップ・アートマンス」に場所を提供するなどしています。
スタッフの大塚慎平さんは、APUの3回生です。働き始めたきっかけは、別府でコワーキングスペースや飲食店を営んでいる「フッド」のオーナー・長谷川雄大さんだったと言います。
「スペイン留学の予定がコロナの影響でキャンセルになり、暇を持て余していたんです。以前から知り合いだった長谷川さんに連絡したら、ちょうど『フッド』立ち上げのタイミングで。それで参加することになりました。自分の仕事は、スタッフとしてフッドの知名度をあげること、売上アップですね」と大塚さん。
東京出身で大学入学を機に別府へやってきた大塚さんですが、別府は生きやすく居心地がいいと感じています。
「新しいことをしようとすると、周りの人があたたかくて『やってみなよ』と言ってくれるんです。みんな、いい意味で自由です」
卒業後は東京で就職し、スキルを身に付けて “自分の生きたい場所で生きる人” になりたいという大塚さん。今このスペースで、いろんなことに挑戦している最中です。
■OFFICE & SAKABA フッド
インスタグラム:@hood.ltd
今回、大学生たちへのインタビューを通して見えてきた「北高架商店街」が盛り上がっている理由。それは「使えるスペースがある」「つなぐ人がいる」「やる気を持つ人がいる」の3つでした。
学生に対して快く貸してくれる物件オーナーがいて、使える場所があること。インタビューの端々に登場する、オープンで活動を後押ししてくれる別府の人たちの存在。そして何より、チャレンジしたいと思うプレイヤーたちがいること。
この3つが上手く重なり、自然と人の流れが生まれ、場が活性化していくのでしょう。学生たちが集まるスポットになっている別府の「北高架商店街」、ぜひ足を運んでみてください。
3人へのインタビューは、私にとって素晴らしい経験でした。皆さんのことは以前から知っていましたが、実際にお会いして、それぞれのビジネスについて詳しく知ることで、彼らへの関心が高まりました。学生でありながら、やりたいことを実現するための努力や行動をしていて尊敬します。
山中美季さんが行う「人々が集まり、情熱を持って演奏したり創作したりするためのスペースの構築」は、制限の多いコロナ禍でクリエイターたちの発表の場が減少している今、とても大切で意義のあることだと思います。私は友人と一緒に、チャイ(インドのミルクティー)とフムス(私が育った中東の食べ物)を作りKURUKURUマーケットで販売し、インドの農村で働く日雇い労働者のための資金集めを行いました。
また、別府や大分の人々に地元の食材を使ったインド風料理を食べてもらおうという藤江将真さんのコンセプトは、異なるバックグラウンドを持つ人々を結びつける興味深い方法です。
大塚慎平さんは「フッド」のたったひとりの従業員。何度もお店に足を運んでいますが、いつでも丁寧な接客で、素晴らしい仕事をしています。
私が伝えたいこと。それは、本当に何かを作りたいのであれば、パンデミックであっても止めることはできないということ。学生や他の若い起業家たちが3人の話に触発され、熱意を持って何かを始めるきっかけになれば嬉しいです。
◆インタビュアー Mudra Srinivasan(立命館アジア太平洋大学)
◆通訳 zhuolin qiu(立命館アジア太平洋大学)
◆写真・動画 林宥志(立命館アジア太平洋大学)
◆記事作成・編集 泥ぬマコ