何かにチャレンジしよう!という気持ちは、いつだって人生に彩りを添えてくれます。勇気が湧き出し、自分でも気がつかなかった、眠った底力が湧いてくるものです。しかし、時に過去の経験や恐怖心が足かせになって、なかなか行動に起こせない人もいるのではないでしょうか。人の目が気になったり、はたまたお金で諦めたり…。
今回ご紹介するのは、湯治ぐらし代表・菅野 静さん。「日本が誇る湯治文化を世界に発信したい」と意気込み、世の中がどんな状況でも、前向きに歩み続けています。その情熱はいったいどこからきているのか。そして、これからどんな人たちと一緒に、どんなものを生み出していきたいのか…。
実際にプロジェクト型シェアハウス「湯治ぐらし」に住む私・橋本明音の目線から、菅野さんの奥底に眠る思いを、引き出していきます。この記事を読んで、「よし、私も少しだけやってみよう」そう思っていただけたら、嬉しいです。
鉄輪の街をバックに、微笑む菅野静さん
2019年3月、大阪から別府市鉄輪に移住してきた、湯治ぐらし代表の菅野静さん。移住前は、大阪の大手広告代理店に勤め、自身の趣味として全国の温泉を巡っていた頃に別府と出会ったという。温泉・湯治の深い可能性に惹かれ、移住後の2020年2月、鉄輪(かんなわ)にプロジェクト型シェアハウス「湯治ぐらし」をオープン。その数ヶ月後には「ヒト・コト・モノ」をかき混ぜるチャレンジショップ「スクランブルベップ」を、ゲストハウス「ひろみや TOJI STAY」の一角に開業。何か新しいチャレンジをしてみたい人が、試験的に展示や販売ができるスペースを運営しています。
菅野さんが手がけているプロジェクトの数々(イラスト:橋本明音)
鉄輪に移住をする前「湯治」にぞっこんだったという菅野さん。全国の湯治宿を訪れる中で、鉄輪にも足を運んだそう。その際、鉄輪の街の空気感やパワフルな旅館の女将さん、元気であたたかい人たちに惹かれて「ここなら私もやりたいことをできるかも…!」と移住を決意しました。
鉄輪温泉で出逢う人たち。ここでの出逢いが菅野さんを支えているといいます
鉄輪でオープンしたプロジェクト型シェアハウス「湯治ぐらし」
湯治ってなに?
広辞苑によると、湯治(とうじ)とは「温泉に浴して病気を治療すること」 。昔は「湯治」というと、農家のおじいちゃんやおばあちゃんが、冬の農閑期を利用して身体の悪いところを治すために、温泉場に自炊で長期滞在するというイメージがありました。しかし時代を経て、現代では病気治癒ではない人たちが精神的な安定やリラックス効果を狙って、心の養生として湯治場に訪れる人も増えてきました。そして菅野さんが主宰する湯治女子では、湯治を「自分のからだとこころを見つめ直す静かな時間」と定義しています。
橋本「”湯治ぐらし”という言葉を初めて聞いた方も多いと思いますが、どういったものでしょうか?」
菅野「湯治ぐらしは、様々な人が住むシェアハウス。学生も社会人も一緒に住みながら、地域の人との関係を築くことが出来たら良いなという想いを込めました。この場所は観光地と住宅街の、ちょうど中間にあります。そんな場所だからこそ、ここで色々な交流を生みたいと思っています。」
橋本「関係を作ることができるシェアハウス、素敵ですね。私も、実際に住みながら色々な人の輪がつながっていて、日々喜びを感じる瞬間に多く出逢えます。シェアハウスから徒歩5分の位置にあるチャレンジショップ『スクランブルベップ』も、そういう交流が生まれる場所ですよね。」
スクランブルベップでの最初のチャレンジャー、別府大学2年の円城寺健悠さん(左から3人目)を囲む湯治女子メンバー。大学を超えたコラボレーションも実現しています
菅野「スクランブル、つまり、かき混ぜる場所だからね(笑)。鉄輪にあるゲストハウス『ひろみや TOJI STAY』さんの一角をお借りして、いろいろな人がチャレンジできる場所として貸し出しています。今までにも、別府大学で歴史・アーカイブズについて学んでいる円城寺健悠くんによる『鉄輪の記憶』写真展や、京都から移住してきた化学者、永松さんによる『湯けむり洋菓子店』がオープンしました。」
橋本「化学者の視点からのお菓子屋さんって面白いですね。湯けむり洋菓子店のお菓子は、本当にどれも美味しくて。円城寺くんの『アーカイブス』の視点から見る鉄輪も、とても印象的でした。」
『鉄輪の記憶』写真展の開催の様子。ノスタルジックな雰囲気、伝わりますか?
「鉄輪の記憶」写真展で来場者へ説明をする円城寺さん。彼の情熱と行動力に、出会う人はみんな惹き込まれていきます。
橋本「菅野さんは、本当に幅広く色々されていますが、何が原動力になっているのですか?」
菅野「ん〜、日本の子供たちのためと、大好きな湯治文化への恩返し…かな。」
橋本「子供たちのため…?」
菅野「昔は、街で自営業してる人が多く、みんなで子供を見てくれる…ということが普通にありました。でも、段々と会社員が多くなって人々がその街の中で集まる機会が減りつつあり、鍵っ子が多くなってきています。全員が自営業に…!ということではありませんが、やっぱり街全体で子供の居場所を作るって、大切なことだと思うんです。そして、私たちが次世代への橋渡しをしていきたいな、と。そのためには、人々の暮らしを豊かにしたいし、私自身も豊かな暮らしの中に身をおきたい。…そんなサイクルをつくりたくて。そのために、私ができることをやりたいなと思っています。」
「湯治ぐらし」で育てている野菜をみんなで収穫
橋本「なるほど。その地域にいる子供達が安心して暮らせることは、大事ですね。地域みんなで子育てをするって、あたたかい…」
菅野「そうそう。そのためには、その街に仕事を作らなければならなくて。だから私は、その街で「働ける場所と環境」をつくる、そして整える。」
湯治ぐらしの暮らしかた。何気ない、けれど、どこかあったかい。
橋本「なるほど…でも、それって湯治に絡めなくてもいいのでは…?」
菅野「わたし自身が湯治に助けられたから、今度は恩返ししたいって気持ちがあって。よく湯治旅をしていた会社員時代、訪れた街の人たちと他愛もない話をしながら温泉に入る…そうすることで生まれる『人との繋がり』に助けられてきました。仕事で忙しい中でも「湯治」をすることで自分を取り戻せた。磁場に引き寄せられるような感覚だったから、湯治場ならぬ「湯磁場」という言葉も、そこから生まれました。そして、今度は私や私と親しい方々と一緒に、磁場になろう!、今度は私が恩返しをしたい!と思っています。湯治は日本が誇れる文化だと思うから、もっと日本全体で力を合わせて海外にアピールしていきたいという気持ちも原動力になっています。実は「湯治」の科学的エビデンスも取りたいと思っていて、いま実行に向けて動いています。」
以前は会社員として働いており、シェアハウスの経営も今回が初めての菅野さん。移住先で初めてのことに挑戦する菅野さんのコツは「小さく始める」こと。小さく始めて小さく失敗をする…そこからの学びを次の挑戦に活かす。…これが、菅野さんの「チャレンジする」上で大切にしていることだとか。
予定していた様々なことがキャンセルになったり、いつも通りの日々に変化が訪れたり…予測不可能なことがたくさん起きる中で、次への挑戦までなかなか考えられない…そう思う人はたくさんいると思います。菅野さん自身も、コロナ禍で当初計画していた事業が進まない中、「小さい」軌道修正を何度も繰り返してきました。
いきなりすべてを大きく変えたり挑戦したりするのは難しくても、小さいことなら挑戦できる、という人も多いのではないでしょうか。
「一歩踏み出したら、色々な人に共感してもらえてここまでこれました。まずは自分のやりたいことを周りにきちんと伝えることも大切。私で良ければサポートするので、何かチャレンジしたい人は、ぜひ一緒に面白い未来を作っていきましょう!」と、菅野さん。
別府はコンパクトな街で、菅野さん曰く「小刻みにオンとオフが取れる場所」。そして、温泉を中心に、地域の人たちとディープなコミュニケーションを取ることもできます。自分自身とじっくり向き合うことで生まれる「やりたいこと」に挑戦できる街、それこそが別府なのかなと感じます。
日本古来の文化「湯治」を、温泉だけでなく新しいライフスタイルとして定義している菅野さん。「湯治」を通して、色々な人や企業とコラボレーションしていきたい!と、熱く語ってくださいました。これから、どんな化学反応が生まれるのか楽しみです。
ひろみや TOJI STAY・絵本作家/イラストレーターのトビイ ルツさんのアトリエに並ぶ、スクランブルベップ
挑戦したい人のためのチャレンジショップ「スクランブルベップ」でも、現在新たな挑戦者を募集中です!湯治ぐらしでの入居・スクランブルベップでの出展にご興味ある方は、ぜひご連絡をお待ちしております。私たちと一緒に、新しいチャレンジをしませんか?(詳細はこちら スクランブルベップ - Home)
今回は、私自身も暮らしている『湯治ぐらし』代表の菅野静さんにお話をお聞きしました。私自身も、大きいことを成し遂げようと意気込むのではなく、目の前にある小さい壁を少しずつ超えていきたいと思います。菅野さん、ステキなお話ありがとうございました!
湯治のあるライフスタイルを湯治女子として発信中。グラフィックデザイン・イラスト・ロゴ制作を行う。鉄輪の「いま」を残したいという想いを込めた「zine(マガジン)」を発行予定。様々なクリエイターで鉄輪の魅力を伝える個展・「紡ぐ、鉄輪展。」のプロデュースも行っている。
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