皆さんは、温泉と聞くと何を思い浮かべますか?
多くの方が、温かいお湯の中でゆっくりリラックスしたり、友達や家族で旅行するシーンを思い浮かべると思います。
別府は温泉湧出量が日本一と言われ、温泉を名物とした観光都市ですが、今、温泉を「観光資源」としてだけでなく、科学的にデータ等を用いて研究し、多業種に活用していく流れが生まれ始めているのです。そこをリードするのが、別府にある温泉微生物研究所「SARABiO」です。
SARABiOは温泉微生物を活用した化粧品の研究からスタートしました。「お客様の悩みの原因を突き止める研究」「原因を解消してくれる原料の効果を確認し評価する研究」「原料を開発する研究」、という3つの研究を独自の視点を持って行っています。これらの研究結果を元に「売れることより必要とされるものをつくる」ことに注力し、頭皮や皮膚トラブル等、悩みに寄り添った商品を数多く展開。様々な事業に挑戦することにより、別府温泉のまだ見ぬ可能性=”源泉”を発掘している研究所です。
今回、SARABiOの創業者である濱田会長、温泉微生物研究所の宮田所長さんにお話を伺いました。人の役に立ちたいという思いを大切にし、温泉の未来を切り拓いていく、熱いSARABiO魂に惹き込まれる取材でした。
溝邉:濱田会長はなぜ温泉を活用した事業を始めようとしたのでしょうか?
濱田会長:私は別府に住んでいますので、よく温泉に入っているのですが、ある日、普通に温泉に入っていたときにふと思いたったのです。「温泉は、疲労回復効果や健康効果がありそうだが…これは温泉の温かさがもたらしてくれるものなのか?それとも、温泉に入ったときの水圧による外的要因なのか?」と。
ちょうどSARABiOを本格的にスタートさせていくタイミングで、同じ頃に『テルマエ・ロマエ』という漫画が大ヒットしました。あれはローマの入浴文化が題材になっていますが、古代ローマ帝国の兵士たちは、科学的根拠はないものの温泉から湧き出る泥が治療に良いと、戦闘時にできた刀傷や打撲に塗っていたといいます。
溝邉:へー!泥が傷の治療に効くんですね!別府でも泥湯があるのでそれも効果があるのかもしれませんね。
濱田会長:そうなんですよ。古代ローマ帝国の話だけではなく、日本でも戦国時代に、武田信玄や、上杉謙信、伊達政宗といった大名の隠し湯がありました。これも、自分の傷を癒し、疲労回復させるためであったそうなんです。このローマ帝国の話と戦国大名の話、そして私がふと思った疑問が結びつき、のちにSARABiOの初代研究者となるメンバーにも相談してみたのですがなかなかいい答えが返ってきませんでした。「簡単そうな疑問であるのに、答えられないのか・・・」と思い、私は様々な論文を読み漁ったのですが、あらゆる論文を調べても欲しい答えが見つけ出せないのです。
ひとつひとつ丁寧に、温泉がなぜ疲労回復や健康効果に良いとされるのか、その原因となりそうなものを掘り下げ、アイデアを出し合ううちに、1つの仮説が生まれたのです。「温泉の中には、微生物の働きで、なんらかの作用が起こっているのではないか?」。この仮説をもとに、別府を拠点とした研究がスタートしました。
「別府は温泉をテーマにした研究を行うには、まさにダイヤモンドのような場所です」と語る会長の濱田茂さん(写真右)と、SARABiO温泉微生物研究所所長の宮田さん(写真左)。
溝邉:研究スタッフの皆さんは、これまでどのような歩みをされてきたのでしょうか?
濱田会長:「RG92」というのは、多くの人を助ける可能性のある、アンチエイジングや毛髪・頭皮トラブル、炎症を抑えるなどの効果に秀でた新種の微細藻類のことです。
温泉微生物の「藻」に可能性があるのではないか?と考えに至るまで、様々な温泉から水、泥、藻を採取しては顕微鏡を覗き、研究する日々を繰り返していました。今振り返ると、本当に大変でしたね。発見された微生物を商業的に活用するため、培養して数を増やさなければならないのですが、これに1年。そして、発見した微生物が新種であるかを確かめるために行う遺伝子解析にも1年かかったでしょうか…。数年間に亘る険しい道のりは、研究スタッフたちにとって目が飛び出そうなほど辛い日々だったそうです。しかし、努力は必ず花を咲かせるのものですね。研究スタッフたちの粘り強い努力の末、「RG92」は特許取得に成功することができました。本当に嬉しかったですね。
宮田さん:また「RG92」は、当初抽出エキスとして化粧品の原料に活用されていたのですが、その途中、国から開発戦略事業金をいただき「人々の健康を支援する目的で、血圧抑制・メタボ効果などに貢献できないだろうか?」と考えました。食品分野への転用研究を進めた結果、数年後に、機能性食品原料として採択することができました!
“石の上にも三年”というが、研究者の忍耐力は凄い。想像を超える努力から生まれた「RG92」。世代を問わず、沢山の方々に知って欲しいと思いました。
溝邉:様々な事業を展開されていますが、今皆さんが目指していることを教えてください。
濱田会長:「RG92」は、ヒトだけでなく、他の生物への効果も期待されています。 5年ほど前、国東半島から頂く、新鮮なワタリガニを敷地内に湧く温泉を利用し、地獄蒸しにして提供するという「地獄蒸しおもてなし」を冬季期間でお客様に提供していました。ワタリガニ等の甲殻類は、地獄蒸しが1番適した調理法です。高温の温泉蒸気で蒸すことで、うまみがギュッと閉じ込められ極上の一品になるのです。これをヒントに「温泉微生物の可能性を人間以外でも試したい」と思い、水産物への応用を決意しました。現在、私たちは、カニやサザエ等の甲殻類の”水産養殖業”開発に励んでいます。 しかし、現在取り組んでいる事業はこれだけではありません。
溝邉:ええ!まだほかにも取り組んでいらっしゃるんですか??
濱田会長:温泉微生物研究所を地域の皆さんに開放します!その名も「森藩別邸」です!海、川、山に恵まれたSARABiOはかつて森藩の飛び地領だった場所にあります。今までの事業、現在チャレンジしていることを活かし、大人のためのテーマパークを開園します。温泉の文化や歴史に触れたり、化粧品の原料を作っている研究所を見学したり。さらに「温肌(おんはだ)~肌自慢をお土産に」をテーマとしたエステ体験も盛り込み、免疫力アップを図ることができたり、栄養満点のグルメも提供します。子どもが遊べる施設はとても充実していますが、大人がゆっくりと温泉の可能性について楽しめる場所があまりないと感じているので、「また別府に来たい!」と思ってもらえるような新たな別府の観光スポットを整えたいのです。
「頭皮や皮膚トラブル、同じ悩みをもった方たちに寄り添った研究を行い、社会に還元していきたい。“どのようにお客様にアプローチを取り、貢献していくかを考える”これが私の人生のミッションです。」こう語ってくれたのは、SARABiOで研究をはじめて約8年目の宮田さん。濱田会長と同じく「困っているひとのために」と全力を尽くす、温かく熱い方でした。
溝邉:研究をするうえで大切にしていること、やりがいを感じる瞬間を教えてください。
宮田さん:研究を行うとき、失敗しないようなストーリーを考えることを大切にしています。“失敗は成功のもと”とありますよね。しかし、企業の成長を考えると失敗だけでは、企業は成り立ちません。例えば、ある成分を使用する際、ある程度性質を見極めて研究を行う。どのように新しい形として生み出せるか。もともとある裏付けから、新しい分野でチャレンジすることができるか。“失敗しない、勝てるストーリー”を成功のために必ず立てます。しかし研究者として、“チャレンジしたいストーリー”を持つことも大切にしています。
地域資源をひとへ恩返しをする大切さを語る宮田さん。ここSARABiO温泉微生物研究所で業界の先端を行く研究を重ねている。お人柄と語り口はとても優しく柔らかい。
宮田さん:実験を行うには、事前の研究や仮説が重要です。その仮説が、正しかったという結果を得られた瞬間が大変嬉しいです。その成果が実際に、もの・かたちとして世の中に出て人の役に立つ。研究の拠点である別府への恩返しとなる。これが私のやりがいです。温泉の資源、別府温泉に潜む微生物は、今後の未来を変えていくかもしれない。自分たちの取り組んでいることにプライドを持って、これからもいいものを作っていきたいです。
「RG92」が入ったフラスコを見せていただいた
顕微鏡から見える世界を見つめ、実験データから人々の生活環境を良くしていくための努力を続けている
別府は「温泉」「地獄」「観光地」というイメージが先行するが、サイエンスやバイオの観点から研究を行っている企業があることがとても斬新だった。別府だからこそSARABiOの可能性がこれから高まり、進化していくと思う。私はそう強く確信した。
今回、SARABiOさんの原動力に触れることができ、熱いパワーを頂いた。就職活動中の私にとって、「どんな大人になりたいのか」、非常に考えさせられる取材であった。こうしてライターをしていること。国語嫌いだった私は、1年前想像していなかっただろう。はじめは不安ばかりであったが、今はやってみて良かったと心から思う。「与えられたチャンスに感謝し、挑戦し続けよう」私はこの想いを大切に、まだ見ぬ自分に出会えるよう、成長していきたい。
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