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未知なる発酵ワールドへ潜入!大学×企業のコラボレーションで生み出される、別府大学の商品開発リポート

未知なる発酵ワールドへ潜入!大学×企業のコラボレーションで生み出される、別府大学の商品開発リポート

2021.01.11

文化商品開発

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皆さんが「和食」と聞いてイメージするのはどんな味だろうか??

「ごはん、みそ汁、玉子焼き、焼き魚、大根おろし・・・冬場は鍋物、そうそう大分県民はだんご汁! あと、ラーメンも立派な和食。豚骨ラーメン、みそラーメン、しょう油ラーメン、麺類で行くと蕎麦もうどんもあるし...。あとお寿司!」いろいろと、連想するなかで、醤油や味噌が使われる品物が多くないだろうか。和食になくてはならない、誇るべき存在が、醤油、味噌等の「発酵食品」だ。

近年、頻発している震災や豪雨などの被災地で、人々は度々モノ不足に直面し、長期保存可能な発酵食品が注目を浴びている。自家製ぬか漬け作りや味噌作りに挑戦する「仕込み女子」も流行。納豆、キムチ、ヨーグルト、甘酒、チーズ などの発酵食品を使用した商品のみを販売する店、通販が展開されるなど、食産業を熱く盛り上げている。

そんな今熱い発酵食品を主に学べる「発酵食品学科」が別府大学にあるのはご存じだろうか?今回は、学科長である藤原秀彦先生と未来の蔵人を育てる塩屋幸樹先生にお話を伺った。現在私は、この学科の3回生であり授業では垣間見ることのできない先生方のお話もあり、大変興味深い取材であった。

 

発酵食品産業の「核」になる

山や海、自然に恵まれている大分県には農学部がありそうでない。「発酵を専門に学ぶには東京農業大学に行きたい・・・でもレベルが高くて行けない…でもやっぱり農学部に行きたい‼」そんな思いを抱く県内の学生の為に、別府大学・食物栄養科学部は2006年に食物バイオ学科を設置。

その後、微生物を中心にした学問を学び、微生物を中心に実学としての発酵食品を研究できる場として2009年に「発酵食品学科」と名称変更された。


試験管で培養中の大腸菌。キャップを取ると、おでんの大根のような匂いがする…

温度を一定に保ってくれるインキュベーター。研究で成果を出してもらうための、微生物たちの生育の場。

 

藤原先生:大分県は古くから味噌や醤油の醸造業、焼酎や日本酒の酒蔵等があり、発酵食品を製造する土壌が整っているため、県内の発酵産業は盛んとなっています。そこで本学の発酵食品学科が、県内の発酵産業の核になり盛り上げていきたいと思い、日本や世界最先端の発酵の学びを学生たちにインプットしています。

2013年に東京オリンピックの開催が決まりましたが、それを機に海外からも「和食」や「発酵食品」に注目が集まっていますこのタイミングでどうしたら美味しいお酒、醤油等の発酵食品を国内外の方々に認知してもらえるか?というのはいつも頭に考えながら学生たちと接しています。この学科の学生は、発酵食品の可能性を世界に伝えたいと、広く大きな夢や希望をもった子が多いです。多くの希望溢れる学生を育てて、世の中に伝播し、県内外の地域産業、活性化に繋がってほしいと思います。

藤原先生の言葉に熱がこもる

 

さまざまな食品メーカーとコラボレーションした商品をつくりたいという学科の願い。そして、企業側の新たなビジネスチャンスの模索の動きもあり、学科全体で共同研究も多数行われている。企業が単体で設備投資するとなると多額のお金が必要になるが、最先端の分析や培養の機器が発酵食品学科には揃っており、機器の利活用も可能だ。発酵食品学科では現在、福岡の企業と有機大豆を使用したコラボ商品「豆乳ヨーグルト」を開発中で、商品化を目指している。ヨーグルトに必須となる乳酸菌をブレンドし豆乳ヨーグルトの種菌を作製しているそうだ。

 

藤原先生:発酵の魅力をたくさんの方に伝え、研究や教育にも活かされるといいなと思っています。宇宙食にも発酵食品は応用されているので、別府大学発の宇宙食が宇宙港となる大分空港から飛び立つ日がいつか来てほしい。是非今後も多くの企業とコラボレーションして商品づくりをしていきたいですね。

三角フラスコの下に沈む酵母について説明する藤原先生


ジャパニーズフードの未来を支える「蔵人ゼミ」

米麹作りに必須な大きな蒸し器。炊きあがる白米の香り、蒸気がもくもく...と釣られてやけどにはご注意を!!!

 


連なるメスフラスコ。お酒を仕込む際、アルコールを回収する「蒸留装置」。少々レトロな風格である。

 

目にみえない微生物が繋ぐコミュケーション

酒類試験製造免許があり、別府大学学内で唯一お酒を造ることが出来る場所、「塩屋蔵人ゼミ」。大学内でお酒が製造できるなんて、と、馴染みがない人からは結構驚かれる。

2018年には別府市とビームスとのコラボレーションプロジェクト「BEAMS EYE on BEPPU」の一環として「別府温泉水あまざけ」が誕生した。別府でとれた温泉水を原料にしている。


こちらが「別府温泉水あまざけ」。別府市桜湯の温泉水使用。300mlで540円(税込)ネット通販、楽天市場で購入可。砂糖不使用で優しい甘さにほっこり、飲みやすい!筆者の私、リピーターです。

 

 塩屋先生:「別府らしいものをつくりたい・学科の発信力をアップしたい」という思いからこのプロジェクトははじまりました。学生にとって商品開発は大変な苦労だったと思いますが学生の社会経験、そして教育の一環として大変意義のあるものになりました。私自身も商品開発を学生と共に行いましたが、行政や企業の皆様とも意見交換しながら出来たので、とても楽しかったですね。

 

なぜ企業との連携を強化している?

数十年前の大学教員は、授業と研究をすればいいという立場だったが、現在では企業や行政と連携し新たなものを生み出していく「産学官連携」が大学等の活性化と我が国社会の発展に大いに寄与するものとして重要性を増している。

 塩屋先生:企業連携を行えば、大学の知識を地元に還元でき、地元が潤い発展すると思います。味噌汁や醤油は地域で味が違いますよね?九州の醤油は甘いけど、関東の醤油は旨味が強い濃口醤油が基本。味噌も赤味噌・白味噌、麦味噌・米味噌など、作られる場所でまったく味や製法が異なります地域の特性を理解し、地域に合ったものをつくり、地元に根付く商品をつくれるのが大学と企業が連携するメリットだと思います。大手の醸造系メーカーも広く愛される商品を世に出すために頑張っていると思いますが、味噌や醤油などの発酵食品は地方によって水や好まれる味わいが異なるので、大手企業が実現するには難しい点だと思います。その点、地方の中小メーカーは大学と共同開発すると「小さくても堅実に稼げる」というビジネスモデルが確立されるのではないでしょうか?

これから社会にでて様々な商品の実現を支える学生に、製造法や科学的知識、食品流通を教えていますが、この知識が社会に渡り、地元の特性を生かした商品を生み、地域の活性化に繋がるような還元ができたらいいですね。

塩屋先生のまなざしは学生を見つつ、その先にある発酵のミライも見ている

 

この産学連携があることで、私たち学生のコミュニケーションの場が増えていると実感している。就職活動もネットやアプリで簡単に行え、インターネット上で会話を交わすことが当たり前になっている今。目上の方々やビジネスを行っている方々と話す機会を頂けることは、大変ありがたい。

 

 「オレは杜氏になる!」10歳から追い続ける夢

自分に厳しく。後輩の悩みにも、まっすぐ向き合ってくれる道下さん。趣味はとことん追求!ロマンに溢れる優しい先輩です!

 

「一途で頑固な性格だから12年間も夢を追い続けられている。20年30年経っても、叶うまで思いつづける」そう語ってくれたのは、発酵食品学科4回生の道下裕太さん。2019年3月には別府市主催のビジネスプランコンテスト「ONE BEPPU DREAM AWARD 2019」にファイナリストとして登壇し、ヨーグルトの商品化についてビジネスプランを発表。以来、企業や行政関係者と話す機会も増えたらしい。2021年4月からは鹿児島県内の大手酒造メーカーの一員となり、杜氏となる夢に着々と近づいている。

道下さん:「生まれは鹿児島。鹿児島には有名な、お酒造りの杜氏の一族があります。その一員が、私の「祖父」でした。祖父の影響があり、小さい頃から焼酎にふれていましたね。私が10歳の頃、祖父が亡くなりました。これが私の「杜氏になる。」と決めたきっかけです。無口であまり喋らなかった祖父ですが、お葬式に沢山のお弟子さん達が来てくださりました。その光景をみて、祖父はこんなに凄い人だったんだ…と初めて実感しました。その時私は、「祖父のような杜氏になりたい。」と心に決めました。

 

4年間を通して、新たな夢

親交の深い先輩方達の多くは、お酒関係の仕事に就いています。そこで同窓生数人で、お酒を開発したいと思っています。夢を語るうちに大きくなり、お米を作っている同窓生の方もいることから、そのお米を原料としたお酒をつくろうと話しています。


ずらりと並ぶ歴代「蔵人ゼミ」生の学びの酒

今回2つの夢を語ってくださった道下さん。夢を語るまっすぐな目が私の目に焼き付いている。

 

世界の焼酎の源泉となる

日本食ブーム到来から、海外で日本食レストランが展開されるようになったことをきっかけに海外でブーム到来した日本酒。それだけにとどまらず、ウイスキーやワインも「ジャパニーズウイスキー」「ジャパニーズワイン」と海外で称され高評価を得ている。しかし、焼酎はなかなか認知されづらく、海外での評価を確立できていない。この現状から、塩屋先生はこう語る。

塩屋先生:別府市内の留学生を対象に、アンケートをとり、海外でも飲みやすく親しまれる焼酎、世界に通用する焼酎を作りたいです。以前卒業生に、親がマッコリ醸造会社を経営している韓国の留学生の方がいました。このように韓国、中国、多くの国の醸造関係者に、発酵食品学科にきてもらい、交流を広げ、最終的に、海外の醸造会社と共同開発や共同研究ができたら嬉しいです。

 

3人で撮る記念写真、とても嬉しい!(左から筆者、塩屋先生、道下さん)

 

編集後記

あたりまえかもしれませんが、「興味があるなら試してみる」「やらない後悔はない」ということは、調理師を目指していた高校時代から、謎にあふれた発酵学に惹かれて過ごしてきた今日まで、私が常に心に決めていることです。先生方の次なる目標や道下さんの夢。取材で伺った際、改めてそれを実感しました。

あたりまえなものに対して、「これはどうやって生み出されたんだろう…」と時々考えてしまうことありませんか??発酵食品、微生物について学んでいると、こんな風に思います。

未知の世界から繰り広げられる想像、可能性、夢、ロマンは無限だ

ふとした疑問から奇跡が起こるなんて、皆さんゼロではないと思います。何事にも積極的に取り組む。ネット社会でコミュニケーション力が低下している時代の今、若者が実感しなおすことではないかと思いました。

あなたのGENSEN(源泉)は
何ですか?

微生物の未知の機能に気づいて、それを解明していくこと

WRITER

溝邉 芹捺

溝邉 芹捺(セナ)

日本

高校時代調理師免許を取得中、沢山の方に親しまれる商品を企画したいという夢を持ち、大学へ。現在、発酵食品を専攻。趣味である邦楽ロック・テクノポップ鑑賞は、1日の習慣となっている。

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情報多量な社会でありコロナ禍の今だからこそ、隠れた魅力溢れる別府のGENSENを発掘。私の記事で様々な方たちの何かのきっかけとなれたら嬉しいです。ライター末経験ですが、好奇心をくすぐり、別府の虜になれるような記事をお届けできるよう頑張ります!

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