別府には「別府八湯」がありますが、もう一つ隠された湯があります。湧き上がるアイデアをかたちにした起業家が集まる、その名も「イノベーター湯」。
第32湯目は朝見ゲストハウス「旅まくら」を経営する相良孝幸さんにインタビューしました!
旅まくら外観
この建物はしばらく空き家で、私がここでゲストハウスを始める以前にもこの家の活用を検討された方が何組かいたようですが、立地条件などの理由で実現していませんでした。
別府市内とはいえ中心地から外れていて観光地ではなく住宅街です。観光ビジネスにおいて立地はとても重要で、これが魅力的な古民家なら話はまた別ですが、よくある普通の古い家です。その上、狭い路地の奥に建っているので地図で探しても入口がどこだかわかりません。
慎重に考えれば諦めたほうがいい物件でしたが、そもそも、資金のない私に理想的な条件の物件はまわってきませんから、思い切ってチャレンジすることにしました。
DIYの改装で壁を剥がした様子。昔の家は竹と土で壁を作っています。
改装したあと
限られた予算の中、できることは全部自分でやりました。そして手を差し伸べてくれるまわりの方のお力を最大限に活用させてもらいました。
家具や食器類はご厚意の寄贈品や安く譲って頂いたものばかりです。改装はDIYを基本として漆喰塗りなどに大勢の方が参加してくれました。
始めるにあたって「別府で温泉のない宿なんて」と心配の声を頂くこともありました。別府では旅館もホテルも温泉付きが当たり前です。その中で温泉がない宿は不利なようにも思えますが、浜脇朝見地区には近くに100円で入れる共同温泉が10ヶ所もあり、どこも源泉かけ流しの良い温泉ですので外湯があることをPRしました。
チェックインの際、お客さんの好みに合わせて温泉をおすすめしています。温泉マイスターでもあるので、それぞれの温泉の特徴を説明をすると皆さん興味を持ってもらえます。
旅まくらに泊まった方は共同温泉に必ず入りますから結果的には温泉宿と同じです。
「温泉のない温泉宿」それこそがイノベーションだと思っています。
100円で入れる蓮田温泉。地域の共同温泉が宿のまわりに点在しています。
夜、私が共同温泉に入っていると宿泊のお客さんが後から入ってきて、そこでまた温泉の話で盛り上がったりします。お客さんにしてみれば、勧められた温泉に行ったら宿の主人が先に入ってたということで、旅の思い出としては強烈です。そんなことが起きる地域は全国的にも珍しいのではないでしょうか。
台湾、スイス、フランスのお客さん達との交流
大分県の地図を掲げるフランスのバックパッカー
次のゲストのためにお勧めの温泉やお店を書いてくれています。彼女達のお気に入りはとらや食堂。
ドイツの方が書いてくれた別府のお勧め場所。絵が上手。
日本はヒッチハイカーにとって天国らしい
新型コロナの影響を受ける前を振り返るとインバウンドで賑わっていました。
古民家ではないごく普通の民家も、外国人の若者からはドラえもんやクレヨンしんちゃんに描かれる二階建ての家にそっくりということで喜んでもらえました。
私達にはあたり前の光景が彼らにとってはザ・ニッポンでした。
これまで世界40ヶ国以上の方々にお泊り頂きました。ヨーロッパからは主にフランス、ドイツ、それにスイス。アジアからは韓国が一番多くて、次に香港、マレーシアも多かったです。
一年を通して外国人宿泊客が全体の8割を占めたのは驚きでした。
1ヶ月以上も長く日本を旅する彼らは節約のため共同キッチンで自炊をします。たまにお国の料理をふるまってもらうこともありました。
フランスの本場のクレープ生地は裏が透けて見えるくらい薄かったです。それを何枚も焼いて食べるので一人前で30枚くらいありました。
ニョッキを作ってくれた陽気なイタリアの男性は、美味しいときは「マンマミーア!」と叫ぶんだよと教えてくれました。
アレンジ料理の時もあります。ドイツの人はスーパーで買ってきたやせうまの乾麺を使って大分の郷土料理を独創的なパスタに変身させました。
こうして毎日交流するうちにだんだんコミュニケーションが取れるようになりました。私の英語はたどたどしいものですが、相手の日本語もたどたどしいのでお互いそれでいいのです。
おかげさまで海外からの評価が高まり大手宿泊予約サイトのレビューで2年連続9.0ポイント以上を獲得し表彰されました。
当初はインバウンド中心になるとは考えてなかったのですが、海外のお客さんが増えるに従って「普通の家なのになぜかいつも外国人が泊まっている宿」となりました。宿の特色はお客さんが作っていくのだなと思います。
地域住民の方もちょっとした国際交流を楽しんでくれるようになりました。
お客さんが旅まくらの場所がわからず住宅街で迷子になっていると、ご近所の方が玄関まで連れてきてくれます。一緒に歩いてくる間に「どこから来たの」と会話が始まって交流が生まれます。
まち全体をひとつの宿として捉え、まち全体を使っておもてなしをする。
そういう人達が暮らす地域を観光客はおもしろいと思ってくれるようです。
2019年秋のラグビーワールドカップでは、半年前から予約でいっぱいになりました。
ゲストハウスもラグビー一色で、オーストラリアを応援するお客さんは黄色い服、ウェールズファンのお客さんは赤い服といった感じです。
ポーランドのご夫妻が「余ったチケットがあるから一緒に観戦しよう」と誘ってくれました。それで道案内も兼ねてついて行ったのですが、人生初のワールドカップがニュージーランドのオールブラックスの試合でした。
オールブラックスが別府の砂湯に入ったというだけで世界中へニュースとなって配信されるくらいですから、ラグビーに詳しくない私でも知ってる世界的に有名なチームです。
興奮したスタジアムの中でポーランドのおじさんがラグビーの解説をしてくれました。言葉も解説もほとんど分からなかったのですが、このときはゲストハウスやっててよかったなと思いました。
新型コロナウイルスの影響による移動制限で国内外の旅行者がいなくなり別府でも休業する施設が目立ちました。影響が1年以上に続きビジネスモデルの転換を迫られています。
私の場合は空いた時間を利用して国家資格の勉強を始めました。2020年10月、国内旅行業務取扱管理者の試験に合格。地域限定の旅行会社を始める準備を進めています。
その他にもショベルカーの免許を昨年取得して塚原高原の雑木林を整地しています。
10年程前から手作業でコツコツ開墾してきて、ようやく重機を導入したことで作業効率もあがりました。年内にキャンプ場をオープンする予定です。その後もアウトドア事業を徐々に展開できればと思います。
まき割りのお手伝いに参加してくれる方々もいらっしゃいます。野外での活動はいざというときの防災訓練にもなるので、日頃から楽しみながらアウトドアに慣れ親しむ環境を作りたいです。
塚原の開墾場所
朝見ゲストハウス「旅まくら」
Address:大分県別府市浜脇3丁目9−32
TEL:0977-51-5790
Facebook: https://www.facebook.com/176671366426455/
インタビュアー:山田椋太郎(別府大学文学部史学・文化財学科2年)