どんな時代になっても、私たち人類にとって体の健康は大きなテーマの一つです。日々私たちの健康をサポートしてくれているエッセンシャルワーカーの方々。「薬剤師」という職業もその一つです。しかし、働き方という点では、まだまだ課題もあるそうです。
今回は、バングラディシュ出身のライターSubah Aliが、別府で薬剤師と人手不足の薬局・病院を繋げるサービス「ふぁーまっち」を生み出し展開している、別府在住の野中 牧(のなか まき)さんを取材しました。
株式会社薬けん 代表取締役で代表薬剤師でもある野中 牧さん
株式会社薬けんは、「柔軟に働きたい」という薬剤師の思いと、「コストを抑えつつ優秀な薬剤師に働いてほしい」という薬局側のニーズを結ぶオンラインプラットフォーム「ふぁーまっち」を展開しています。薬剤師は通常、常勤やパートで薬局や病院などで働いているケースが多く、男女比では女性薬剤師の比率は約60%を占めています。また、薬剤師の資格を持っていても子育て期間中に業務に従事できない薬剤師が一定数いるのが現状です。「ふぁーまっち」は、「月数日でも仕事をして社会に貢献したい」という薬剤師の柔軟な働き方を可能にし、働くことへの障壁を低くしています。同時に、「ふぁーまっち」のサービスやウェブサイトは薬剤師や薬局・病院関係者だけでなく患者にとっても非常に安心できるものになっています。
薬けんのサービス「ふぁーまっち」の仕組み。https://yakuken.work/howtouse/
SU:野中さんはどうしてこの「ふぁーまっち」のサービスを始めようと思ったのですか?
野中:私は薬剤師の有資格者で2人の子供を持つ母親です。私が小学生の頃、両親が共働きだったこともあり、学校の行事に参加してもらえなかったり寂しい思いをすることが多かったんです。「私が働く時には子どもにさみしい思いをさせたくない」と決意して、仕事をしながら子どもたちのそばにいられる方法を考えたのがそもそものきっかけです。
働く母親にとって、仕事と家庭を両立できる柔軟な働き方を実現するのは、とても難しい問題です。
野中さん自身が2人の子どもを持つお母さん。さみしい思いをさせないように子どもたちのために充てる時間を常に考えているそうです。
保育園に預けている子どもの体調が悪くなったら、迎えに行かなければならない。しかしまだ仕事が残っていたら、他の人にそれを頼まなければならない。そういうことが積もり積もると気を遣ってしまって、職場に居づらくなってしまう...。ということが、すべての働く母親にはつきものなんです。
働きづらい環境の根底には「休みづらい」という社会課題があることに気づきました。
私は薬剤師なので、休みたい薬剤師の代わりに勤務すれば、休みやすい環境が作れるのではないかと思い、そのようなサービスを作ろうと思いました。そして、多くの薬剤師や薬局・病院関係者の方々の役に立ちたいと考え「ふぁーまっち」の仕組みを考えました。
さらに野中さんは、医療関係者が仕事と生活を両立させるのはとても大変なことだと話します。
野中:人々の健康を支えるという重要な業界である以上、仕事の優先順位が高くなるのは当然のことです。そんな人たちにとって、「ふぁーまっち」は救いの手になると信じてこのビジネスをやっています。このサービスでは、登録している薬剤師は、勤務時間だけでなく、働く職場や時給も自由に設定できます。また、大分県は薬学部がないので薬局・病院は慢性的に人手不足なエリア、より多くの職場が薬剤師の活躍を求めています。私自身が「ふぁーまっち」を利用し働きに行っているという経験しているので、使いやすいようなシステム作りを心がけています。
SU:そうなのですね。私はバングラデシュ出身なのですが、バングラデシュでは病院ごとに仕組みがあり、同じようなサービスはないですね。「ふぁーまっち」のように、働きたい人がフレキシブルにシフトを決められることはとてもいいなと感じます。
自分自身の体験から薬剤師やそれに繋がる医療関係者の方々の「働き方改革」を推進していこうとしている。仕組みづくりを行政などに頼ることなく民間でできることを野中さんが旗を振ってやっているのだなと感じたお話でした。
SU:野中さん自身はプレーヤー/マネージャー/経営者という3つの側面を持ちながら仕事していると思いますが、経営者になってはじめてわかったことはありますか?
野中:雇われている時は経営者の目線に立つということや、自由に意思決定するということができなかったのですが、今では自分がやりたいことを思い通りにできる喜びを感じていますね。
SU:伴走者の存在、周りのサポートはどうだったのでしょうか?
野中:起業してからの3年間シェアオフィスに入居していたので、いろんな職業の方々と出会えて、相談できる人が多いのが有難い点ですね。そのおかげで、辛かった、大変だった、という想いはあまりないです。むしろ、形にしていく面白さを感じています。
シェアオフィス「Alliance Social Share Office Beppu」で、同じく入居中のJIITAKのメンバーらとアプリ開発についてミーティングしている様子
SU:アプリの開発など試行錯誤がたくさんあったと思いますが、現在はどのような感じですか?
野中:「ふぁーまっち」のサービスやウェブサイトは、登録している薬剤師や薬局双方から定期的に連絡があり、登録している薬剤師は21名、登録薬局・病院40件と徐々に増えています。また、薬局・病院のユーザーからは「必要時に来てもらえる」、薬剤師のユーザーからは「希望の条件で働くことができるのが嬉しい」という声をもらっています。
私は、多くの人にふぁーまっちのサービスを知ってもらい、協力者を増やしたいという思いで、2019年度からビジネスプランコンテストに多く登壇しています。「第2回おおいたスタートアップウーマンアワード」や「九州未来アワード2019」、「ONE BEPPU DREAM AWARD 2019」などに登壇し、2020年は大分県主催の「第17回ビジネスプランコンテスト」で優秀賞を受賞しました。
2019年2月に行われた「第2回おおいたスタートアップウーマンアワード」では娘さんとともにレッドカーペットを歩いて登壇
私自身ですべてできたわけではなく、多くの方々に協力してもらい、手伝ってもらいました。また多くのワーキングマザーに働きやすい環境を整えたい!働く選択肢を増やしたい!という思いを共感してくださる方々がいたからこそ、ビジネスコンテストで選んでいただけるのだと思います。
SU:多くの人に届けるために、野中さん自身がどんどん前に出ていかれているのは素晴らしいですね。私もぜひ、多くの人に使って欲しいと思いました。野中さんは、別府はどのような環境だと感じていますか?
野中:私は臼杵出身なのですが、子育てには別府が一番いいと思っています。立命館アジア太平洋大学があることで、別府市内どこに行くにも、様々な言語が飛び交っています。日常的に、子どもや一般市民が様々な国の人と合流できるのは、別府の魅力だと思います。
野中さんに、今後の展望、目指している世界について聞いてみました。
野中:2021年の目標は九州全体へ、2025年以内には全国へサービスを拡大することですね。少しずつ、サービス拡大の実績を作っていきたいです。また、企業の方々ともこれまで色々と話をしてきましたが、サービス拡大に向けて、PRや費用面でのサポートが得られたら大変嬉しいです。
さらに、野中さんが繰り返し話す、薬剤師への復帰にためらいをもつお母さん達への想いも。
野中:育児が一旦落ち着いた後、復帰を考える薬剤師は多いと思いますが、ブランクが長ければ長いほど仕事に復帰するのが怖いという気持ちはあると思います。「ふぁーまっち」で、月に1日でも勤務を続けていれば、本格的に復帰する際に抵抗なく復帰できるので、ストレスや不安は軽減されるのではないかと思います。よかったら一度アプリをダウンロードして見てみてください。
パンデミックが起きている今、「ふぁーまっち」はこれまで以上に重要なサービスだと思います。様々な業界や働く人にチャンスを与えてくれます。私の国では、医療従事者が不足しており、病院のスタッフも不足しているので、このようなサービスは国際的にも有益だと思います。野中さんは、「フルタイムではなくても働きたい」という働くお母さんにも機会を与えることができるとおっしゃっていました。大分の薬局は人手不足なので、「ふぁーまっち」は薬局と薬剤師の両方にソリューションを提供しています。このようなサービスは、まだまだ伸びしろがあると思うので、「ふぁーまっち」と野中さんには、さらなる飛躍を目指して頑張っていただきたいです。
バングラデシュのオンラインプラットフォームで、フェミニズム、包摂性、受容性について語るボランティア活動をしている。
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