新型コロナの流行以降、多くの人の働き方が変わりつつある現在。企業の方針でテレワークを実践する人も多く、移住やワーケーションという言葉を耳にする機会も増えてきました。
とはいえ、実際にワーケーションや移住をした人というのは、まだ小数派。「東京を離れ、地方での仕事はなんとなく楽しそうだけど、本当のところどうなの?」という疑問を抱く人も多いでしょう。
そこでGENSEN編集部では、ワーケーションや移住で東京から別府にやってきた人たちに、別府での仕事やプライベートについての正直な感想を大学生インタビュアーの臼井もえさんがお聞きしました。
果たして「温泉生活最高!」なのか、それとも「ダラダラして仕事にならない」なのか。ワーケーションで滞在中のおふたりをご紹介します(「移住テレワーク編」はこちら)。
ビッグローブが取り組むワーケーションの実証実験の一環として、2021年6月から別府で暮らす柴田 雅大さん。新規事業を作る部署に所属し、ワーケーションのマッチングプラットフォームの推進や、他社と協業したマーケティングなどを行っています。
TIPS
【ビッグローブ】
ビッグローブ株式会社は、インターネットなどのネットワークを利用した情報サービスや、情報サービスの提供など、通信に関連する事業をメインにSDGsや社会に貢献する新規事業を推している
臼井萌(以下、もえ):なぜ別府でワーケーションをしてるのですか?
柴田さん:ビッグローブは「温泉大賞」というユーザー投票によって温泉地や旅館を番付する活動を10年以上行っており、温泉地と深い関わりがあります。そこで今回、コロナでダメージを受けている温泉地に恩返しできないかと、ワーケーションのマッチングサービス「ONSENWORK」を立ち上げました。温泉地でのワーケーションが実際どうなのか、数値的なエビデンスをとるなどの実証実験も行っています。その一環として、社内で別府でのワーケーション実践者を募っていたので、応募したのがきっかけです。
当初は3ヶ月の予定だったんですが、別府に来てから新たにプロジェクトが生まれるなど、気づけば半年の滞在になっていました。
もえ:別府で生まれたプロジェクトとは?
柴田さん:別府大学の学生たちと議論したり、講演したり。講演ではリアル50人、オンライン200人を前に90分も話をして、貴重な経験をしました。他にも別府ならではのワーケーションのコンテンツを市長と一緒に考えるなど。現地の人と関わって、そこから取り組みがつながっていくことが多いですね。
もえ:観光とワーケーションの違いはありますか?
柴田さん:今回のワーケーションは、人と関わる機会が多かったです。観光客としてではなく住人として、地域の人と接したのが大きな違いですね。ローカルなお店を知ることができるし、自分で行ったり連れて行ってもらったりしました。友達もできましたよ。東京だと話す機会がない大学生と仲良くなれたのは、別府ならではだと感じます。
もえ:どんなところに住んでいるんですか?
柴田さん:温泉付きのシェアハウス『湯治ぐらし』に住んでいます。学生やカメラマンと仲良くなったのも、この住居のおかげですね。地域との繋がりや接点を作るのには大きな役割がありました。
もえ:仕事と休みを分けるのが難しそうですね。
柴田さん:そうですね、それは少しあって、たまに仕事とそれ以外を分けるのが難しいです。でも、温泉がひとつの境目になります。朝起きて温泉に入り、熱いお湯で意識を切り替えて「仕事モード」に。仕事終わりにも風呂に入って、「OFFモード」と一区切りつける習慣ができました。
もえ:なるほど、そんな効果があるんですね。毎日温泉に入って変わったことはありますか?
柴田さん:毎朝毎晩、お湯に浸かる習慣ができました。温泉は眠りが深くなるし、体が冷えず、疲れの取れ方がまったく違います。本当にコスパがいい健康法です。
もえ:東京に帰ってやりたいことは何でしょうか
柴田さん:今回の目的のひとつは「実際にワーケーションしてどうなのか」をフィードバックすることなので、良さをきっちり伝えていきます。そして「ONSENWORK」を他の企業にも広めたいです。そのために制度を整え、いろんな企業の人に使ってもらえるようにしたいです。別府には宿もたくさんあるし、たくさんのおもしろいコンテンツがあります。それを活かしつつ滞在できるような工夫がきたらいいですね。あとは、コワーキングスペースなどがもっと増えるといいかもしれません。
もえ:これからは良さを伝える仕事が待っているんですね。多くの人がワーケーションの良さを知って、別府に来てくれたら嬉しいです。今日はありがとうございました。
柴田さんと同様に、鉄輪のシェアハウス『湯治ぐらし』で生活するのは、オリックス・ホテルマネジメントの大森 芙希さん。愛媛県の出身で、幼い頃に別府に来た記憶がおぼろげながら残っているそうです。
宿泊部門のマーケティング担当として働く大森さんは、別府の「杉乃井ホテル」も担当しています。東京から別府に来て3ヶ月、どんな変化があったのでしょうか。
TIPS
【オリックス・ホテルマネジメント】
オリックス・ホテルマネジメント株式会社は、施設運営を行う会社。ホテルをはじめとした宿泊施設、水族館、研修所などを運営しています。
もえ:どんな経緯で別府でワーケーションをすることになったのですか?
大森さん:私の仕事はマーケティングです。コロナ禍で宿泊業界が大打撃を受ける中、地域の人たちと協力して盛り上げ、旅館やホテルにも人を集める「地域共創」というのが会社の方針として打ち出されました。
けれども実際にホテルの近くに住んでみないと、どう盛り上げるかの糸口や課題など、わかりません。そこで会社のメンバーから「行ってみる?」との打診があって「行きます!」となり、ワーケーションが実現しました。
もえ:そうなんですね!では今回の取り組み、会社として制度があったわけではないんですね。
大森さん:そうなんです、私が初めてなんですよ。これまでも出張してホテル滞在した例はありますが、住むことはありませんでした。決まった途端、人事に「本当に行くの?」なんて言われたりもしましたよ。
もえ:実際、別府に住んでみてどうですか?
大森さん:料理の味付けが故郷の愛媛と似ていて、少し懐かしく不思議な感覚がありますね。人がとても優しくて、あったかいです。話しかけてくれる人も多くて、受け入れられてる感じがします。
もえ:地域の人と交流したりもするんでしょうか?
大森さん:そうですね、飲み会やご飯などはよく誘われます。つい先日も昼食でたまたま隣になった人と意気投合して、夜はスナックに行きました。東京ではまず無いことです。
シェアハウスの生活も初めてで、はじめは不安でした。でもここにいると、自然と「いろんな人と話そう!」という気持ちになるんです。学生さん含め幅広い年代と接する機会があって、楽しんでいます。普段は30〜40代と接することがほとんどでしたから、いろいろ新鮮ですね。あと、人がいるって安心するなと感じています。
もえ:来てみてわかったことは何ですか?
大森さん:『杉乃井ホテル』が、市民のみなさんにどう思われているのか、リアルな声が聞けました。「地域のことは気にせず突っ走ったらいいと思う」「『杉乃井』に灯りが点いていると観光客が増えてきたとホッとする」「観光客数のバロメーター」など、東京ではまず知り得なかったことがわかりました。
もえ:住んでみて、考えが変わったことはありますか?
大森:そうですね、温泉地と『杉乃井ホテル』で連携がとれないかなど考えるようになりました。自分が体験しているからこそ、不便なことや欲しいものなど、今後アイデアを出してカタチにできると思っています。住んでみないとわからなかったことは大きな説得材料です。東京に戻ったら、地域の人から見たホテルのイメージや思いなどを踏まえて、これからどうすべきか考えたいですね。
もえ:別府で不便なこととは?
大森さん:交通の便が少し悪いかなと感じます。近くにコンビニがないのも不便といえばそうです。けれどコンビニがないからこそ自炊するようになりましたし、バスの時間も確認すればいいだけなので、逆によかったことが多いかもしれませんね。
もえ:なるほど、そういう考え方もありますね。
大森さん:別府がいいところだったからこそ、自分の地元にも興味が出てきました。実家に帰ったら、愛媛県内の観光地にも行ってみたいですね。こんな風に自分や周囲を見つめ直す機会になりました。
もえ:ワーケーションは成功でしょうか?
大森さん:大成功です!「住んでみないとわからないこと」がたくさんありました。別府に来て本当によかったです。実はワーケーションを決めたのも、会社のためということはもちろん、自分のためになると思ったからでした。東京ではできない体験ができると思ったし、財産になると考え、実際そのとおりの充実した時間になったと思います。会社が「行っていいよ」と後押ししてくれるのは、私にとって本当に嬉しいことでした。
もえ:仕事にもプライベートにも、いろんな発見や気づきがあるワーケーションだったんですね。今日はお話を聞かせていただき、ありがとうございました。残り少ない別府を楽しんでください。
■編集後記
御二方ともコロナ禍での働き方改革でワーケーションとして別府に住み始めたという共通点がありました。私も大学入学を機に今年4月から別府で暮らし始めたのですが、温泉を軸にした暮らし方や、地域の方々のあたたかかさが気に入っている点には、大変共感できました。
ワーケーションは最近よく聞く言葉ですが、実際に可能なのか、どのようなメリットがあるのかなど知り得ませんでした。今回の取材を通じて、仕事と休暇を両立した働き方の魅力が理解できたと思います。魅力あふれる別府で、ワーク・ライフ・インテグレーションの実践のための多様な働き方が、さらに広まればいいなぁと感じています。この度は貴重な機会をありがとうございました。
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