いつもうまくいかない、このままでいいのか不安・焦る、心がざわざわする……。
コロナ禍で働き方や生活が変わった今、変化のスピードに追いつけず、どこか落ち着かない気持ちになったり、イライラしたり、うまく成果が出せなかったり、悩みの声が多く寄せられています。そんな状態から抜け出し、望む未来へ進むために身につけたいのが「セルフマネジメント」のスキルです。
自分では気づきにくい思考のクセやストレスなどに注目し、これまでの枠を外す。自分の望む未来へ進むための、新たな選択肢を生み出す。その一歩を踏み出すための「セルフマネジメント研修」とは、一体どんなものでしょうか。
今回リポートするのは「セルフマネジメントワーケーション」の一環として行われた研修プログラム。ファシリテーターに稲墻 聡一郎氏、コファシリテーターに猪熊 真理子氏を迎え、おんせん県の観光都市・別府にて、2021年12月3日〜5日の3日間行われました(※ワーケーションプログラムの全体の詳細はこちら)。
■ファシリテーター:稲墻 聡一郎(いながき そういちろう)氏
Transform LLC/
Co-founder and Partner
大手IT企業、ベンチャー企業役員を経て、2011年に起業。2015年~2017年、Drucker School of Management(通称:ドラッカー・スクール)で2年間学び、2017年7月に帰国。同大学院の准教授ジェレミー・ハンター博士、卒業生の藤田 勝利氏と共に「Transform」を設立。マネジメント/イノベーションプログラム・コンサルティング・コーチングを実施している。
■コファシリテーター:猪熊 真理子(いのくま まりこ)氏
OMOYA Inc. 代表取締役社長 / 女子未来大学ファウンダー
(一社)at Will Work 理事
認定心理士。2007年(株)リクルートに入社。会社員の傍ら「女性が豊かに自由に生きていくこと」をコンセプトに女性支援の活動を行う。2014年に同社を退職し、株式会社OMOYAを設立。社会人女性の学びの場「女子未来大学」ファウンダー。多様な価値観の多様な幸せを女性たちが歩めるような未来を目指して女性のキャリアや心理的な支援活動などを行っている。
3日に渡るセルフマネジメント研修の1日目、「なぜ今セルフマネジメントが大事なのか?」というテーマからスタートです。
「好きなときに食べていいし、飲んでいいです。スリッパも脱いじゃいます。リラックスしてやりましょう」と、まずは場を和ませる稲墻さん。講師陣の自己紹介が終わると、参加者が実際にやってみる「ワーク」の開始です。
最初のお題は「頭の体操ワーク」。楊枝にはどんな使い方があるか?を考えます。
このお題で浮き彫りになるのは、思考のクセ。思考のクセとは、無意識の思い込みや偏りのことです。これらを知ることが、既存の枠から脱出する第一歩になるといいます。「どんなことを思っても良いんです。正解や間違いはありません。思うことや感じることは人それぞれで、わからない場合も多い、それでいいんです」とのアドバイスがありました。
続いて「写真を見て何を想像するか」のワークでは、どんなストーリーが思い浮かぶのか、一人ひとりがイメージします。「目を閉じて嫌なことを連想してみる」のワークでは、自分自身にどんなストーリーが生まれたか、どんな感情や感覚があったか、どんな反応が出たかを観察しました。
ワークの次は、首や腕を回す、スクワットなどのエクササイズの時間です。エクササイズの前後に脈を測り、変化を見ます。簡単なエクササイズにもかかわらず、前後の脈拍数の大きな違いに驚きの声があがりました。実際に動いたり考えてみたりして、少しずつ自分の思考のくせや思い込みが見えてきたかもしれません。
それぞれのワークやエクササイズの後には、参加者同士で話し思いを共有する「グループワーク」の時間がありました。参加者たちは他の人の意見を聞き、新たな自分自身の偏りに気づく、そんな体験を繰り返します。
続いて、思考のクセを探るための知識「ストレスとはなにか」についての解説です。“頑張れば結果は出る” との言葉があるように、ストレスは比例してパフォーマンスは上がると思われがち。しかし実際は、人がストレスの限界を超えると、パフォーマンスは下がるものです。“限界を超えたこと” に気づき、"疲れとはどんな感覚か" を知ることが大切だといい、60〜120分に1回の休憩は必須だとも強調しました。
もうひとつ、自分自身を理解するためのポイントとして挙げられたのが「神経システム」についてです。人間の神経は、自分をコントロールできるちょうどいい状態(レジリエンスゾーン、グリーンゾーン)と、気持ちが昂ぶって興奮している状態「過覚醒」、逆に無気力になっている状態「低覚醒」の3つの神経の状態があると説明。自分がどの状態かを把握し、ちょうどいい状態に戻る方法を知ることが大切だといいます。
ストレスと神経について学んだ後は「呼吸のワーク」を実践しました。椅子に浅めに腰掛け、ゆっくり吸ってゆっくり吐く深呼吸です。ポイントは、自分の呼吸の深さや浅さに気づくこと、湧いてきた感情に気づいて呼吸に意識を戻すこと。
稲墻さんは「いつでもどこでもできる深呼吸は、簡単だけれどぜひ日常に取り入れてほしい」との言葉でしめ、1日目が終了しました。
・親しみやすい話し方と、わかりやすい例えだった
・体を動かすのがよかった
・上から目線じゃない、威圧的じゃない、違っていてもいい、間違いなんてない、というのがよかった
・他の人はそんな考えだったのか!という驚きがあった
・自分の話を新鮮な感じで聞いてくれて嬉しかった
実際にやってみるからこそ「ストンと腹落ちする」「自分の体験として実感できる」そんなワークと、その後の思いをグループで共有する時間。その繰り返しが、これまでにない体験として、さまざまな気づきを与えてくれました。
2日目のスタートは席替えから。メンバーが入れ替わったグループ内で自己紹介した後は、エクササイズです。伸びをしたり、肩や首を回したり、足踏みしたりして体をほぐします。
続いて深呼吸。「深呼吸の間にも、さまざまなストーリーが浮かびます。浮かばなくてもいい。その後呼吸に意識を戻しましょう。その繰り返し。今この瞬間に気づいていくこと、これはマインドフルネスと言えますし、集中力を鍛えるひとつの方法です」と、ゆったりした口調で解説してくれました。
心と体をほぐした後は、昨日の振り返りを行いました。参加者たちは、1日経って気づいたことなどを話し合います。
・自分の思考パターンに気づいた。自分でいつの間にかマイナスなことばかり考え、悪いパターンに自らハマりに行ってる感じがする
・戦略的に休みを取り入れないとダメだと気づいた
・回復するためのアクションってなんだろうと考えていた
・「感情に気づいてシフトさせる」これを意識してやれば、できるかも?という期待でワクワクしている
などなど、昨日の研修内容を踏まえ、それぞれの課題や今後の期待が出てきたようです。
参加者たちの声を受けた稲墻さんは「身体反応に気づくのを難しいと感じる人は多いですね。私の場合は目の奥が重くなり、そこから体にいろいろな変化が出て呼吸が変わり、焦りや不安へとながっていきます。そんな中で、早めにその反応に気づき、切り離すことが大切です」と解説しました。
人間の思考の80%はネガティブといわれており、85%の心配事は起こらないとの研究結果があります。成功してるから・健康だからポジティブではなく、ポジティブな意識を持てるから健康・成功が手に入るとも言われています。自分に起きている、自分の周りにある何か良いことに意識を向ける、それは自分の意思でできること。しかし、訓練が必要だといいます。
そこでぜひ覚えたいのが、ポジティブな事柄に意識を向けるための技術「リソーシング」です。リソーシングとは、気分を良くしてくれるもの、元気づけてくれるもの、力強くしてくれるものなど「リソース」を思い浮かべること。リソースは家族や友人、ペット、花、音楽、料理など、「自分の意識を良い方に向ける」ものならなんでもOKです。良い・悪いはなく、途中で変えてもよい、自由なものだといいます。
稲墻さん自身も、寝る前やオフィスに歩いていく途中、リソーシングを行っているそうです。参加者もそれぞれのリソースを探してリソーシングを行いました。
続いては「IR(インテンション・リザルト)マップ」の作成です。これは自分が望む結果へ近づけるために使うマップで、2つのフェーズがあります。
フェーズ1では「今起きていること」を起点に、行動、選択、認識、意識、意図を書き出しました。書き出してみると、意図と結果の間で起こるギャップを見つけることができます。
フェーズ2では「本当に望む結果」を起点に、意識、認識、選択、行動、結果と、フェーズ1と逆の順に項目を書き進めました。自分の望む結果が見えていると、意識・エネルギーを向ける先がわかるといいます。
できないことだけでなく、できることに意識を向けると認識が変わります。認識が変われば選択肢が増え、行動が変わり、結果が変わる可能性が高まるというのです。
ふたつのシートの記入はかなり難しく、参加者のみなさん苦戦している様子でした。なんとか書き上げた人、なかなか進まない人、稲墻さんや猪熊さんに質問しながら進める人など、それぞれです。
IRマップは高いハードルを設定せず、まずは自分の身の回りについてから始めるのがポイント。根本的な問題やハードルが高いものも、同じ構造で起きているケースが多いのだそうです。
「最初は記入が難しいものの、IRマップは個人で、チームで、会社で、組織で、期間を気にせず使えて活用できる便利なツールです。どんどん書けば見えてくるものがあり、分析するためのもの。書くのは認識する機会なので、うまく書けなくてもOKです!」と締めくくり、IRマップの共有は、最終日に行われることになりました。
・不安がストレスの原因だと気づいた。それをリフレーミングできた。不安はネガティブなだけのものだったが、気づくためのきっかけなんじゃないの?との言葉をもらって、はっとした
・自分で色眼鏡を持っているなと感じた。会社のメンバーを「この人はこうだから」と決めつけ、それが可能性を消してる気がしたので、改善すべきと気づいた
それぞれの参加者が自分を掘り下げることにより、1日目よりも具体的に自分の抱える問題の核に近づいているようでした。
前日同様に、まずは席替えから。3日目になり、ほぼ顔見知りとなった参加者同士、表情もずいぶん和らいでいます。
「さっそくですが……外に出てリソーシングをしましょう!」
稲墻さんの呼びかけで、参加者たちは12月の寒空の下へ繰り出しました。真っ青な空と冷たい空気に満ちた屋外で、メモやペンを片手に歩く人、スマホで写真を撮る人、キョロキョロとあたりを見回す人、それぞれの時間です。
全員が会場に戻ると「リソースがあった人、手を挙げてください」との質問。全員の手が挙がりました。リソースは、探せば必ずある、見つけようとすれば見つかるもの。日頃下ばかり見ていたり、「やらなきゃ」と気張ってばかりだと見つからないものだといいます。
そして昨日の振り返りを行った後は、「IRマップの共有」の時間です。20分間、各々の作成したIRマップを見ながら話をし、数名が発表しました。
自分で困難を呼び込む人、他の人にお願いするのが苦手な人もいて、誰かに頼るという選択肢が見えていないこともあるそうです。もっと自由に発想し、シェアしながら、あいこち行き来しながら作成するのがIRマップの使い方だといいます。
「中にいると思考が制限されるので、外に出ましょう!考えながら、感じながら、休憩プラス散歩として外に行ってみてください」
稲墻さんの呼びかけで、参加者たちは再び外へ。
会場に戻り個人でIRマップを作成した後は、再びグループでの共有タイムです。それぞれ自分なりの発見があり、グループ同士で積極的に話をしています。身振り手振りも多く、声が明るい印象です。ここ3日間で一番、イキイキとした表情が多く見られました。
欲と衝動を含め、自分の感情は体と密接に繋がっているため、体の反応を察知することが大切。体に問いかけ、体で感じることと、体の反応や感情と思考が乖離していると気づくことができれば、行動を変えるきっかけになるといいます。
今回のプログラム内で繰り返し体験・実感しているからそ、この言葉は参加者たちに深く響き大きな説得力がありました。
3日目のプログラムも、これでほぼ終了です。
「すべてのことは瞬間に起きています。過去に起きた恐れや不安を持ち込んだり、未来を怖がって恐れたりしますが、見ているものを意味づけしているのはすべて自分です。過去を振り返る、未来を見据えるのは大切ですが、そこにエネルギーをかけすぎなくていいんですよ。今の積み重ねが次に影響を与え、それがつながっている。現実はそれが続いているだけです。
この3日間は入り口にすぎません。基本は日々の実践でどう気づくか、どう行動をしたのか。まずは身体と感情と思考がどうつながっているのか、これ以後もこのプログラムで得たことを使い倒してください」と、稲墻さん。ぜひ続けて欲しいと、下記の項目を挙げました。
・IRマップを書き続ける
・意見を聞きたくなったら誰かに連絡をとってみる
・軽い運動、深呼吸、リソーシングをやってみる
・体の感覚、感情がどう思考につながるか、幅を広めるか、狭めているかを知る
※撮影のときだけマスクを外しています。
・自分には意外とたくさんリソースがあると気づいた
・仕事帰りに月を見る、それだけでリソースなんだと知った
・そういう事柄に名前があることを知った
・人との違いや意見を知ることが楽しい。それが楽しいと思えたことが発見
・自分と人は意見がぜんぜん違う。「これわかるよね?」が通じる通じない両方あって、みんな違う
3日間の研修を終えて、それぞれの気づきと学びがあったようです。今後、個人的にワークを続けるなかで、どんな変化が起こるのか楽しみですね。
晴天にも恵まれ、終始なごやかであたたかな雰囲気の中進行した「セルフマネジメント研修」。始めは初対面同士だった参加者たちが徐々に打ち解け、それぞれが新たな気づきを得て、目に見えて表情も明るくなったのがわかりました。
できなくてOK・深刻にならなくてOK・やり直してもOK・良い悪いじゃない・ダメなことはない。否定されずに進めていくワークはのびのびとした気持ちになり、凝り固まった脳みそが柔らかくなるような時間でした。
押し付けや上から目線はなく、あくまでフラットな立場で話をする稲墻さんと猪熊さん。そんなおふたりと一緒に実際にやってみる、そしてみんなで話をすることで、置いてけぼりにならず、心の底から納得できる、そんな体験となったようです。
心も体もきゅうくつになりがちな今だからこそ、自分を整え選択肢を生み出す「セルフマネジメント」のスキルは、今後ますます必要になるでしょう。
2022.09.01
メンバー募集
2020.10.16
プロモーション
2020.11.24
プロジェクト
2022.12.12
施設紹介