地方の企業が地域や業界を超えて他企業と連携し、新たなサービスをスタートするケースは珍しくありません。企業間のコラボは福祉の世界も同様に進んでおり、別府でも新しい取り組みが数多く誕生しています。国内外の学生×福祉、子ども×福祉、アート×福祉……それぞれの現場で話を聞いてみました。
2021年8月、立命館アジア太平洋大学(以下、APU)山形辰史 教授による授業「障害と社会」があり、フィールドワークが行われました。
APUでは、座学で福祉を学ぶ機会はあるものの、福祉施設へ実際に足を運ぶフィールドワークは、今回が初の試みとのこと。15人ほどの学生が参加しました。5日間のプログラムでは、障がい者スポーツや車椅子の体験をしたり、「太陽の家」とその関連企業や「ユナイテッドサークル」を見学したり、福祉の現場で働く人の講義を聞いたり、盛りだくさんの内容です。
GENSEN編集部がお邪魔したのは「ユナイテッドサークル」でのフィールドワーク。施設内の様子や、子どもたち・職員たちの普段の様子を見学しました。
職員による説明が始まると、学生たちは熱心に話を聞きながらメモをとり、「現状で足りないことや課題はなんですか?」「労働やお金について教えてください」「今後のゆめや目標はなんですか?」などなど、多くの質問を投げかけます。「将来は相談員になりたい」と話す学生もおり、福祉に対する関心の高さがうかがえました。
福祉施設の老舗ともいえる「太陽の家」とは対照的に、平成30年に新しく設立された「ユナイテッドサークル」。社長の川村武玄さんにお話を聞いてみました。
障がいのある親戚が身近にいて、福祉の道を進むことになったという川村社長。「理想の福祉をカタチにしたい」との思いから、会社を立ち上げました。
運営しているふたつの施設には、それぞれ特徴があります。「HAMMOCK」では、車椅子を利用する子や医療的なサポートが必要な子のために、家のようにゆったり過ごせる環境作りをしています。体調や身体面のリハビリが必要なので、理学療法士と連携した取り組みなども行っているそうです。
一方の「ADVANCE」では、発達障害の子がプログラミング技術を身につける取り組み、コミュニケーションを上手にとるための支援が行われています。また、子ども同士のコミュニケーションを図るソーシャルトレーニングを実施。パソコンやタブレット、ボードゲームなどが様々な機器があり、遊びながら学んでいます。遊びを通して対人スキルを身につけ、社会に出ても困らないようにするためです。
川村社長は、他企業との連携も積極的に行いたいと意気込みます。
「現在、『体を動かすことで、子どもたちの心身の調整を図る』という事業を考えています。
そのためにはトレーナーや器具、遊具などが必要で、他企業の協力が必須です。体を動かすことの有効性を測定できる場所を作れたら、さまざなデータもとれますよね。
子どもたちの成長のために、彼・彼女たちが将来興味があるものや職業なども体験させてあげたい。そんな想いもあります」
創業約2年半の現在。放課後等デイサービスを7年続けてきた川村社長は「そもそも子どもが好きで、楽しんでやれるのが大前提」としながら、子どもたちの卒業後「大人へのサービス」を充実させる必要性があると訴えます。
「支援学校の卒業生は、障害者就労作業所へ就職したり、デイサービスを利用するのが一般的ですが、時代は変化しています。私たちができる就労支援の形も変わっているんです。
パソコンを使って作業したり、農作物を作ったり、そういったおもしろい取り組みも増えています。現状ではまだ『障がいがあるから低賃金』というのは一般的なことですが、障がいがあるからこそ、特性を生かしたことで賃金を得られる世の中にしたいですね。
例えばスティーブ・ジョブスのように発達障害とされる人でも、自分のこだわりや特性を理解してくれる・活かせる環境があれば活躍できます。『障がいは個性』として認知される時代になるはずです」
続いては、福祉×アートで、障がい者の自立を目指す「naNka」にお邪魔しました。すでにいくつものプロジェクトが動き出し、地域住民にも認知度高まっている企業です。アウトサイダー・アートによって課題解決と価値創造を目指す活動について、「naNka」代表の梅本弥生さんと、アートディレクターの佐藤霧子さんにお話を聞きました。
絵画教室を主宰する梅本さんのもとには、障がいのある子どもも多く通っています。彼らには切り絵や色塗り、裁縫などそれぞれ得意分野があり、好きなことには集中力を発揮するという特徴があるそうです。そんな彼らの「得意を伸ばし、アートが仕事になったらいいな」との思いから「ユーツー」を設立しました。
しかし、彼らにはやる気の波があります。得意を見つけコンディションを整える、そしてアート商品の素材を提供する。それが、梅本さんの「naNka」での役割です。例えば「マスクケース」プロジェクトでは、別府をモチーフにしたアーティストの作品を素材として使用。それぞれの作品をかけ合わせたり切り取ったりして商品化しました。
提供された素材を生かしてデザインし、商品として仕上げる。それが佐藤霧子さんの所属する「Cont」の役割です。佐藤さんは「アートで稼ぐ、障がい者が稼ぐのは難しい。というのは知っていました。デザインとは、課題可決と価値創造だと定義しているのですが、そのふたつを実現できる可能性に満ちた活動が障がい者アートだと思い、共同出資して『株式会社naNka』を設立しました、ふたつの会社の、6人の共同出資によって設立した経緯を語ります。
「naNka」が大切にすることのひとつに「地域の人に知ってもらう」というものがあります。最近では地域の人に依頼され、シャッターアートやキリンのオブジェを作成しました。依頼を受けたとき、まず梅本さんが行うのは「彼らの特性を必ずきちんと伝える時間をとる」ことです。
1日長時間の作業はできない、だから短期間での完成は難しく、納期は長めになるなどの事柄を伝えます。これらを説明することで、相互理解が生まれ、地域の人たちに「障がい者について知ってもらう機会」となるのです。
障がい者と一緒に仕事をすると、イレギュラーなできごとが必然的に多くなるもの。しかし、それも想定内として、楽しむくらいのおおらかな姿勢と空気が「naNka」にはあります。なにかあれば、そのつど対応するというスタンスです。
今後はナショナルカンパニーとも連携し、世界ともっとつながりたい、と意欲を見せる佐藤さん。アートは言葉、国境、時代を超え、世界とつながり、発信できるものだといいます。
梅本さんは「アートは本来、障がいの有無は関係ないんです。彼らが楽しく生活でき、周りの人たちに評価され『がんばってるね』と認められる環境を整えたいと思っています。やりがいのあることを楽しくやりたい、生きていることがたのしい、そんな感情は障がいの有無に関係なく、みんなが願う幸せですよね。だから、好きを対価に変えて生活できるようにマネタイズする、それが大事なんです」と語りました。
オリンピック・パラリンピックが開催され、障がい者たちに注目があつまるタイミングに合わせて会社を設立した梅本さん。現在は『SDGs』という言葉が浸透し、障がい者への関心が一時的なものではなくなってきたといいます。多様性を社会が認める風潮があり、まさに時流に乗れている最中。社会の時流に乗ることは、とても大切だと梅本さんは力説します。
今後の課題は「今まで障がい者にかかわりのなかった人に、どう伝えるか」。彼らのことをみんなが考え生きやすい社会になると、「誰もが生きやすい社会」になるといいます。例えば車椅子の人へ配慮した設計は、老人にも優しい作りというように。「それを身近なところから少しずつ進めていきたいですね」。梅本さんは穏やかに微笑みます。
最後に、おふたりに今後の目標や計画をたずねてみました。梅本さんは「今を楽しむ、そして会社をつぶさない」との返答。佐藤さんは「続けていくこと。変化に柔軟に対応し、変わらないようで変わっていくことですね」と答えてくれました。
別府の福祉業界には、次々と新しい波が起こっているようです。それぞれの企業がこれまでにない挑戦的な取り組みをしたり、多様化する将来を見据えたプロジェクトを立てたり。『障がいは、ハンデではなく個性』と多くの人が認識し、それが当たり前になる時代は、もうすぐそこまで来ているのかもしれません。「福祉先進都市・別府」は、すでに動き出しています。
編集後記(インタビュアー:Pimの感想)
別府に世界の福祉や障がい者に関わる団体があることを知り、嬉しく思っています。「ユナイテッドサークル」では、子どもたちが友達と楽しく過ごしていて、手厚いケアとあたたかい雰囲気が伝わりました。運動プログラム、医療機器、プログラミングコース、ボランティアとのイベントなど、この場所を強化するためのスペースがいくつかあり、他の組織にとっても良い投資になると思います。経済的な利益のためだけではなく、子どもたちに明るい道を開きたいという川村さんの考え方を高く評価します。
APUの山形先生が担当された「障害と社会」のサマーセッションでは、学生の視野を広げ、意識を高めるために、ユナイテッド・サークルでのフィールド・ビジットが行われたことも良かったと思います。学生たちがこの問題にとても興味を持っていることを実感しました。
「naNka」は、障がい者と社会と経済を同時にエンパワメントする会社です。障がい者が作ったイラストなどの素材をプロがデザインし直し、様々なデザインのマスクを展示しおり、素晴らしいものでした。将来的には、別府市民がこの問題にもっと関心を持ち、社会全体を支える手助けをしてくれることを願っています。
私の将来の目標のひとつは、戦略的なマネージャーになることです。今回の取材で、社会問題の解決についてもっと考え、全体として持続可能な発展を実現するためにベストを尽くしたいと思いました。
◆インタビュアー Nichakorn Kurpipat(立命館アジア太平洋大学)
◆通訳 zhuolin qiu(立命館アジア太平洋大学)
◆記事作成・編集 泥ぬマコ
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