別府には、およそ100ヵ国からきた人たちが約4000人住んでいます。まさにダイバーシティ&インクルージョンな街。さらに別府には九州ではじめてのモスクがあったり、ヒジャブを身に着けている人たちを日常的に目にすることが多いのも特徴です。
今回は、そんな別府にある立命館アジア太平洋大学(以下APU)のムスリム研究センター(以下RCMA)を取材しました。研究センターと聞くとガチガチの研究を行っている施設…と思いがちですが、実はRCMAでは、ハラールビジネスの知識を深めるための講座や企業とのハラール商品の開発に取り組んでいる場所です。
それでは、RCMAのセンター長である笹川秀夫教授と副センター長であるダハラン・ナリマン准教授に話を聞いてみましょう。
ダハラン准教授:
センターでは、研究はもちろん実践的なプロジェクトを行っています。例えば学生を中心に、ハラール商品の開発を目的とした商品の企画から味のテイスティング、マーケティングの戦略づくりなどを行っています。テイスティングの際には、APUにいる様々な国の人たちから意見をもらえますし、実際に商品開発にはムスリムの学生だけでなく、東南アジア、南米、南アジアあるいは中東の学生なども関わっています。これは90ヵ国以上の学生がいるAPUでしかできないことだと思いますね。
笹川教授:
センターでは、イスラームの教えなどイスラーム研究をガチガチにしましょうというよりは、授業の一環として、学生自身が企業と一緒になってプロジェクトに取り組んでいます。開発した商品は大学の生協にも並んでいたり、別府駅のお土産屋さんにも置いています。そしてこれからは、この商品がどうしたら売れるのかを考えるマーケティン視点のプロジェクトも進めていこうと考えています。
ダハラン准教授:
京都にあるハラールレストランのメニュー開発にも携わりました。やっぱり色んな国の学生がいるAPUだからこそ、テイスティングや売り方など様々な意見を反映させられます。
そもそもムスリムって何?
世界3大宗教の1つであるイスラーム(イスラム教)を信仰している人々のことをムスリムといいます。イスラームには生活習慣に関する様々な教えがあり、ムスリムはその教えに基づいて生活しています。参考:観光庁 「ムスリムおもてなしガイドブック ムスリム旅行者受入環境の向上を目指して」https://www.mlit.go.jp/common/001101141.pdf
ダハラン准教授:
現在のムスリム人口は16億人くらいですが、人口増加率が高く、2040年には宗教別で一番大きな人口になるのではないかと言われています。そのため、ムスリムの市場を狙った商品開発などのビジネスが注目されています。ただし、食べてはいけないものやハラールの決まりなどムスリム文化を理解した上で、市場を狙う必要があります。例えば、銀行で利子を取得することはハラールではないので、してはいけないことです。資産運用なども従来のやり方でなく、ムスリムのルールで許されたやり方でしなくてはいけません。
日本と違うムスリム文化の特徴
✓豚肉は口にしてはいけない
✓アルコール飲料を口にすることは避けるべき
✓イスラームのと畜方法で処理された肉(ハラール肉)以外は避けるべき
✓1日5回礼拝をするその他にも、断食月(ラマダーン)など日本の文化とは違う点があります。
参考:観光庁 「ムスリムおもてなしガイドブック ムスリム旅行者受入環境の向上を目指して」https://www.mlit.go.jp/common/001101141.pdf
ダハラン准教授:
多文化と共生するためには、みんなの理解が不可欠だと思います。日本ではハラールという言葉など、まだまだ知られていないことがたくさんあります。例えば、シンガポールは多言語多宗教多文化で様々な人たちがバランスよく共存していますよね。そのような国を参考にすればいいと思います。
大分県にあるフンドーキン醤油と一緒に開発したはちみつ醤油ハラール
笹川教授:
でもね、どこまでやるかという話もあります。
例えば鶏肉も鶏を締めるときにコーランの一説を唱えたり、様々な決まりがあります。APUでは開学当初からそこまでやっているお肉を学食で出しているんです。APUの学食が他の大学よりお値段が高めなのはそのためですね。さらに5、6年前からは鍋や釜、食器まで全部変えるようにしています。カフェテリアの入り口前に緑の札がありますよね。あれを載せるとムスリム用のお皿を出す、とかそこまで気をつけてるんですね。ただ、皆が皆そこまでできるかっていうとなかなか難しい。
企業の方も最初はAPUのようにやろうとするけど、いやそこまでやる必要があるのか、日本に来る時点でムスリムの方がそこまで求めているのかって思い始めるんですね。
実はイスラームは個人的な宗教、私と神様の繋がりなので、とにかく豚肉が入っていなければいい、普通のスーパーで売っている鶏肉でもいいっていう人もいるんです。だからムスリムフレンドリーっていう、最低限、豚肉やアルコールは入っていませんって示すだけでもいい。そして多文化共生の意味では、ベジタリアンのお客さんもいるので豚や鳥の絵などを用いて食材に含まれているものを言語以外の方法で示す必要があるとかね。
うちはこういうことをやっていますとちゃんと伝える、嘘をつかないということが大事なんです。
ハラールフードって?
イスラームの教えで「許されている」という意味のアラビア語がハラール(ハラル)【アラビア語: حلال Halāl 】です。反対に「禁じられている」と言う意味の言葉が「ハラーム(ハラム)」です。ハラームをノンハラール(ノンハラル)と言う人もいます。ハラルやハラムはモノや行動が「神に許されている」のか「禁じられている」のかどうかを示す考え方です。例えば、嘘をついたり物を盗んだりすることは「ハラム」とされます。ハラールフードは、イスラームの方式にしたがって”と畜”された動物の食肉、あるいはその派生物などを指します。参考:日本フードバリアフリー協会 ハラル事業部 「ハラル(ハラール)について」http://www.halal.or.jp/halal/
笹川教授:
聞けばいいんです!日本人は宗教を特別なものだとか怖いとか思っている人もいるけど、結構みんな「よし、何でも教えてやる、何でも聞け!」って感じなんですよね。なので先に私たちが気をつけるのではなく、聞けばいいと思います。たまに失敗してもそれはそれでいいと思いますね。
ダハラン准教授:
そうですね。ムスリムは人によって、何が許されるのか・許されないのかが違うのでちゃんと本人に聞く必要がありますね。
イスラームは一見タブーの多い宗教だと捉えられがちですが実は人それぞれに基準があり、それを聞くこと自体はタブーではない。違いを理解し合おうと歩み寄る姿勢こそが大切だと改めて感じました。新型コロナウイルスの影響で世界との分断や差別が広がっている今だからこそ、別府から理解と優しさの輪が広がることを願っています。
東京生まれ東京育ちの別府Lover!ガールスカウト、アメリカ留学、国連機関でのインターンシップを経験。 2019年末からジェンダー平等の考えを広める学生団体(Instagram: @equal.apu)を立ち上げ、現在は大学の選抜プロジェクトの1つとして活動中。