湯のまち別府から、日本中へ、そして世界中へ「No Charity, but a chance!(保護より機会を)」を理念に、メッセージを投げかける障がい者自立支援施設がある。1965年、日本パラリンピックの父と言われる中村裕博士が、障がい者でも平等に働ける社会をつくるために設立した太陽の家だ。
彼に賛同し、オムロンやソニー、ホンダ、三菱商事、デンソー、富士通エフサスと共同出資会社をつくり、現在約1,100人の障がい者の方々が働いている。ここは日本にもまだ少ないニューノーマルな社会を実現している場所だ。そして、その太陽の家が今年7月にオープンしたのが「太陽ミュージアム」だ。
太陽ミュージアムでは、来館者が誰もが障がい者の暮らしをサポートする道具や用具の体験ができたり、ボッチャの体験や車いすレーサー、バスケットボール用車いすの試乗や障がい者用に設計された車の試乗をすることができ、障がい者の日常を体験することで共生社会について考えるきっかけを提供している。また、英語や韓国語などの多言語対応していたり、トイレや通路の広さ、展示物の高さなど施設内のもの全てが障がい者向けに配慮されており、普段の生活空間と比較することができるのも特徴的だ。
「あれ?思った以上に目線が低い。壁面にある展示物の位置がかなり高く、目線を通常より2倍上げないと見えない。」今回、人生で初めて車いすを試乗してみて、私は真っ先にこう感じた。視界が制限され、背後に振り返るだけでも車いすの操縦に手間がかかる。これは、私と車いすに乗っている人との違いを認識できた初めての瞬間だ。
私たちは、障がいのあるなしに関わらず、みんなが生活しやすい環境をつくっていくことを目指している。しかし、理想と現実にはまだまだギャップがある。そもそも、私自身この記事の中で”障がい者”という表現が正しいのかどうかすら迷う。
最近読んだ福祉実験ユニット「ヘラルボニー」代表の松田崇弥さんの記事に、「この国の一番の障害は障害者という言葉だ。」という言葉があった。その記事には、障害というものは社会の仕組みやテクノロジーが追いついていない為「生じているもの」であり、"欠落”ではなく”違い"だと言っていた。確かにその通りだ。私たちはまず、言葉のあり方から問い直さなければならない。障がいは欠落ではなく、あくまで“違い”にすぎないのだ。この違いを少しずつ理解していくことで、私たちが求めている共生社会へと確実に近づいていく。
しかし、現段階ではまだまだそのレベルに到達できていない。例えば、太陽ミュージアムの施設スタッフによると、スロープの傾斜がほんの2〜3%高くなるだけで車いす利用者にとっては腕に大きな負担がかかるそうだ。施設側が障がい者に気を配り、施設の入り口にスロープを設置したとしても、傾斜が高ければ障がい者にとってはたちまち「入りずらい施設」となってしまう。善意で行なったことなのにも関わらず、“ありがた迷惑”になってしまっている現状が何とも歯がゆい。
この現状を改善するのに役立つ大きな手がかりは「体験」にある。太陽ミュージアムの館長である四ツ谷さんはこう語る。
「体験することは、見て学ぶことよりも強く印象に残り、その後の行動に活かされやすい。あらゆることを体験を通して学ぶことで、共生とは何かを考えるきっかけにしてほしい。」
例えば、健常者が実際に車いすに乗り、スロープの傾斜角度の違いでどのくらい腕に負担がかかるか体験してみる。また、ユニバーサルデザインのスプーンやハサミを実際に手に取って使ってみる。こうした“リアルな体験”をすることで、障がい者が日常の生活で感じる悩み・ニーズを明確に理解し、解決へ向けた具体的な行動へと繋がっていく。共生社会とは、障がいへの理解を超えた、その先にある。共に職場で働き、共に暮らす社会ではないだろうか。
太陽ミュージアムの前身である「太陽の家」が設立されて55年。地域のスーパーには障がい者が一緒に働いており、レジで温かく迎えてくれる。障がいの有無に関わらず、誰しもが自立して働く環境が整っているのだ。共に働き、共に暮らし合うニューノーマルな社会がここではすでに確立している。これは日本でも類を見ない共生社会のモデルだろう。
「みんな違ってみんな良い。社会に望まれる自分になる必要はなく、あるがままの姿が一番大切である。」
太陽ミュージアムが発信するメッセージには、現代を生きる上で私たちが理解すべき大切な願いが込められている。
別府市出身。地元の地域活性化を目指し、観光促進・まちづくりに励む。大学2年次にアメリカ・サンフランシスコへ留学。世界トップのIT企業であるGAFAMの本社へオフィス訪問し、現地社員にインタビューを実施。現在は、企業ホームページ制作・ブログ発信・地域密着型テイクアウトアプリの開発などを手がける。
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