前回2020年12月28日に掲載した記事「ALL JAPANで宇宙港を実現しよう」別府はどう変わるのか」から、約2ヶ月半。
米企業ヴァージン・オービットの航空機による小型衛星打ち上げ拠点に選ばれた大分県国東市に位置する大分空港では、早ければ2022年から打ち上げが開始される見通しも出ており、場所の開発や、周辺地域の整備など実現が急がれている。
スペースポートシティ開発にあたり、決して夢物語ではなく、各地域は実際にどのように関わっていけるのか。
このたび、スペースポート関連事業開発や周辺まちづくりを推進する、一般社団法人スペースポートジャパン(以下、SPJ) 共同創業者&理事 片山 俊大氏、株式会社クラフィット 代表取締役社長 山中 哲男氏に、当ウェブメディア「GENSEN」を運営する一般社団法人B-biz LINKの池田が話を聞いた。
左側:SPJ共同創業者&理事 片山氏、右側:株式会社クラフィット 代表取締役社長 山中氏。(撮影の瞬間のみマスクを外しています)
池田:まずは、お二人のことをご存知ない方々へ向けて、お二人がどのような経緯でプロジェクトに関わられたのかをご紹介したいと思います。まずは片山さん。普段どのようなことをされているのですか?
片山氏:普段は、東京の広告会社に所属しています。以前、UAEのアブダビにある日本の石油権益関連の仕事をしていたんですが、産油国での石油の展示会で、経産省・外務省や大企業など様々な機関と連携し、日本の宇宙産業を発信するというプロジェクトを立ち上げました。これが結果的に、様々な成果をもたらすことができました。
宇宙との関わりといえば、元々宇宙工学を専攻した訳でもなく、宇宙に特に強い関心があった訳でもありませんでしたが、縁あって、先ほどの宇宙資源エネルギー外交のプロジェクトに携わることになり、結果として宇宙産業との深い関わりが生まれてきたんです。また、最近、宇宙産業と非宇宙産業の連携ニーズが年々高まっているため、私のような宇宙産業の外からの視点による事業プロデュースのニーズも高まっていることを知りました。
池田:なるほど。宇宙に関心がなかったからこそ、その立場で冷静に見ることができるのですね。
片山氏:そうですね。もちろん、夢とかロマンって、今現在宇宙に関わっているほとんどの方が抱いていると思うんですが、私の場合は、ワクワクから入るのではなく、そこに何の目的があって、どのようなメリットがもたらされるか。そこを重視しています。
日本は、スペースポート開発実現において、とても有利なエリアや産業のポテンシャルがあるのにも関わらず、それを推進する活動が存在しない。それで、2018年、課題意識を共有した7名が集まり、一般社団法人Space Port Japan(スペースポートジャパン)を設立しました。SPJは、日本でのスペースポート実現とその関連産業の発展を目指し、先頭に立って活動を行っています。
スペースポートシティ実現に向けて、関係者がどのように関わっていくのが良いかを語る片山氏
池田:片山さんは、異なる産業・関係者を繋ぐ「翻訳者」ですね。
片山氏:そうかもしれませんね。当時まだなかったようなカテゴリを生み出していく中で、ある意味客観的にオーガナイズしていくことができ、新しい宇宙産業を作り出す「異業種間の翻訳者」としての役割を実感しています。
池田:山中さんも、宇宙の事業は今回が初めてでしたよね?
山中氏:そうですね。私は普段、「事業開発」の領域のプロジェクトに関わっています。プロジェクトをやられている方は分かると思いますが、立ち上がっただけでは動かない。そこを「動かす」役目を期待していただいています。片山さんに出会ってから宇宙の事業に参画したため、宇宙の専門家ではありません。
全体構想を把握し、「今、何をやるべきか」を見立て、常にロードマップの解像度を高め、計画を立てて、人を巻き込みながら事業を育てていくことを意識しています。ファイナンスに長けている人やデザイナーなど、様々なスキルを持った人材がいるので、関与者が増えていくほうが、自分自身の得意領域ではあるんです。振り返ると、ゼロから作り上げる、ということを100以上はやってきてますね。
池田:大きな絵を描く人がいても、実際に現場で進められる人が揃わなかったり、進まなかったりということが多い中で、とても重要な存在ですね。
日本各地で事業の立ち上げに日々奔走する山中氏
山中氏:そう。金融領域と、地域開発。どこか交わらない部分を、繋ぎ合わせ推し進める。地域には、事業をやりたい人と、資金を活用してチャレンジを応援したい、という人たちがそれぞれにいるんです。
ここで一つ、携わった地域開発のことをお話しすると、投資をしたい人と事業をやりたい人との声が同時に集まったため、プロジェクトが宙に浮かずに実現したという事例があります。よそ者ではなかなか辿り着けない農家さんとのネットワークを持っている事業者さんがプレイヤーとして手を挙げたので、そのネットワークを活用することで開発する店舗と農家が繋がりをつくることで、地域が点ではなく面で活性化していくイメージが出来たことにより、投資企業や地域の金融機関さんをうまく巻き込めたんだと思います。
池田:両者がいることに、なかなか気づけない地域や事業者さんの方が多いかもしれませんね。
山中氏:世の中には資産や資源がいっぱい余っているんですよ。ただ、繋がっていないことで機会喪失している。ここを繋ぐためには、「よそ者」の力を借りることも必要。地域のマイクロコミュニティの良さがさらに引き上がり、大きな動きにするための伴走者として大切な役割があると思いますね。
片山氏:そうそう、お互いに似た要素は持っていると思うのですが、お互いのスキルや役割は違う。関係者の制限がなく、未知で誰も分からない中で、「実際に推し進める」部分が大事なんですよ。みんな応援するし、やりたい。そういったことを、一緒に進めています。
池田:すごい。山中さんは、事業の解像度を上げていく「伴走者」ですね。翻訳者である片山さんと、伴走者である山中さん、お二人のリードによって、スペースポートシティ構想という大きな絵が、実現に向かっているのですね。大分県、別府市もご一緒できて嬉しいです。
©2020 canaria, dentsu, noiz, Space Port Japan Association. SPJが掲げる、実現に向けたスペースポートシティ構想図。近未来的なデザインは、国内外で大きな話題となった。
池田:前回の記事、別府内外の方からとても反響がありました。ただ、本当に実現されるのか、未知なる部分が多いですよね。
片山氏:中長期で考えると、SPJが発表したスペースポートシティ構想は実現可能だと思っています。短期だけで考えると、難しいこともありますよね。なので、長期的に実現することと、短期的に実現することを、ちゃんと分けて考えることが大事だと思います。大分空港は、衛星輸送サービスを行うヴァージン・オービットの拠点になるので、短期的には、大分を訪問するヴァージン・オービット関係者、衛星事業関係者、投資家などの関係者向けの各種サービスや、その関連産業を創造する必要があるかと思います。
池田:確かに、長期と短期を整理して考えることで、地域で産業を生み出すことに繋がっていきそうですね。
片山氏:衛星の打ち上げが始まると、新たな人の流れができ、大きな経済効果が生まれますし、滞在した人たちが別府の温泉でリラクゼーションできる。宇宙港を起点にできることは膨大にあると思います。
山中氏:少し視点を変えてみたいのですが。これらの構想は、大分県民や別府市民の方々がいかに豊かになるか、ということに全て落ち着くと思っています。その手段として「宇宙港に関与する」。「宇宙 × 農業」だと、どこでも実現できる事業なので競争に巻き込まれてしまうため、「宇宙 × 大分の●●町」「宇宙 × 大分の工業ネジ」など、エリア固有の特性を活かした方が良いですね。そうすると、地域の方々の関わり方が明確化し、地域経済も活性化してきます。
山中氏:提案ですが、「大分の●●」をある程度カテゴリ分けして、関わっている企業に地元のものを使って欲しい、というピッチ大会を開催するのはどうですか?公募型、提案型、の両方が大事。共同実施でもいいので、やってはどうですか?
池田:「大分の●●」ということで、何か提案したい、という事業者さんは多いので、盛り上がりそうですね!
片山氏:ちょうど1年前、SPJの会員企業が集まり、スペースポートシティ構想図が生まれました。それの第二弾を、スペースポートシティ構想図 第二弾として展開したい。そこに、「大分の●●」を加えていきたいですよね。それらを可視化し、地図もデジタル化し、インタラクティブに進化する地図を作りたいと考えています。
山中氏:絵を作って終わり、ではもちろんなく、常にアップデートしていく前提。主体となる人(企業)がコアなコンセプトや方向性を描きつつ、地域の事業者や地銀さんたちも含めて、具体的なことを一歩ずつ一緒に形にしていくことが大事。他府県との連携も必要になってくるので、協業していきたいですね。
片山氏:私の拠点である東京と京都のビジネスパーソンやクリエーター等から、様々な相談をいただくんですよ。そこをぜひ、大分・別府にどんどん繋げていきたい、そして新しい産業を作っていきたい。そのために、「スペースポートシティ構想図 大分版」を形にしたいんです。我こそは、という方はぜひさまざまなカタチでご参加いただきたいので、GENSEN通じてお声がけください!
池田:未知の領域であり、アジア初の取り組みですからね。
片山氏:大分の地政学や特徴を考えたときに、大分空港は「AIR & SPACE PORT」なんですよ。国東半島から海が開けていて、PORTであり、AIR PORTであり、SPACE PORT。つまり、世の中のPORT3点セットを総取りしているような好条件。しかも、別府には100ヶ国からの人が住んでいますよね。3つのPORTに加え、世界各国とのネットワークもある。この強みを最大限に生かせるような「PORT PROJECT」を構想し、別府温泉のどこかにその準備室を設置したいですね。
池田:楽しそう!温泉って裸になるじゃないですか。裸で同じお湯に入ると、どこの国だろうと、肌の色が違おうと、みんな一緒に交われるんです。温泉と絡めて、ぜひやりましょう。
片山氏:21世紀はグローバルの時代と言われました。しかし、これからはハワイにいくよりもずっと近いのは大気圏。国境を気にしないグローバル時代から、大気圏すら気にしないユニバーサル時代に変わっていく。その結節点が、ここ大分であり、別府であり、GENSENであるなと感じています。
池田:楽しい議論は時間を忘れますね。ぜひ、形にしていきましょう。この記事を読んで、何かやりたい、という企業さんにはぜひご連絡いただきたいですね!片山さん、山中さん、有難うございました!
通信社、ベンチャー投資会社を経て、現在はコーディネーターとして活動中。地球を丸ごと旅したいくらい、旅が大好き。これまで訪れた国は53ヵ国ほど。心理士、防災士として、地域のご相談もお受けしています。
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