「ねえ、学校にいくときに、怖いことってある?」
アフガニスタンにいる女子学生が、オンラインの画面越しに日本の高校生に問いかけました。
「私は、チャレンジが3つあるんだ」
彼女は続けます。
「まず、学校に到着するまでに、銃や爆撃を受けずに無事に行けるかってこと。2つ目は、、、」
高校生の女の子は、びっくりした目で、「なんで」と聞きます。学校に行く間に、殺されるかもしれないなんて・・・。
きっと彼女は、このショックを忘れないでしょう。
でも、これが現実世界で起こっていることなのです。
今、日本の子供たちの多くがこういった世界の情勢をテレビでしか見聞きすることがないまま、いえ、その機会もとても少ないまま大人になります。
真の教育とは、何なのでしょう?
数年後、教育がどのように変化しているのか、考えたことはありますか?
新型コロナウイルスによって教育革命が加速し、教育者や保護者は教育システムの有効性を考え直し、再設計することを余儀なくされています。この記事では、未来の教育のあり方「KIDEA」を通じて探っていきます。
KIDEAとは、様々な文化的・社会的な課題を議論し共有するために、留学生と日本人学生とをつなげるオンライン教育プラットフォームです。
「日本の学生たちは、現実世界を理解する必要があると思うんです」
この「KIDEA」という壮大な教育理念を語るのは、母親であり、教育者であり、朝日新聞の社員である堤梨佳(つつみ・りか)さん。日本の教育をより良い方向に変えていきたいと情熱を注ぐ、子どもをもつ一人のお母さんです。
日本の学生たちは、自分が居心地の良い場所に身を置き、そこから抜け出せないことが多い。そのことが、真の成長やグローバル化社会で生きていく妨げになっていると梨佳さんは考えます。
質の高い教育や教材に簡単にアクセスできたとしても、異なる文化や視点を理解することは、そう簡単にいかない。もっと世界に関心を持ち積極的に関わるべきだと言われても、どうやって?
このような葛藤から、日本の学生たちが世界と関わりあう機会を作るため、「異文化実践学習」という概念が生まれました。
KIDEAは、単に英語を教えるサービスではありません。留学生と日本人学生が、アート、ダンス、料理、スポーツ、武道など自分な好きなジャンルを通じて、それぞれの生活を自由にお互いに教え合う「対話型オンラインセッション」です。
「ねえ、そっちではどんな電車が走ってるの?」
「みんな、どんな恋愛してるの?」
日本の子供たちは、無邪気に聞きます。
留学生は英語で話すだけでなく、ジェスチャーを使ったり、時には自分の家にあるものを引っ張り出して見せてあげたりします。中には、冒頭のストーリーのように、自分が当たり前だと思っている生活との違いにショックを受けることもあるでしょう。しかし、それが世界のリアルなのです。旅や留学の大切なエッセンスは、まさにこのリアルを感じ取るところにあります。
日本の学生が世界中の学生と出逢い、交流する。そのことで、自分が慣れ親しんだ安全な範囲内だけではない世界を知り、鮮やかに理解します。梨佳さんは、「日本の学生たちがKIDEAを利用することで、自分の生活や教育がどんなに恵まているかを知るんです」と話します。
KIDEAの教育と学習の概念をさらに深く探るため、梨佳さんは実証実験の場所に別府を選びました。
別府は、市民の異文化への共感と受容力が高く、何かを実験するには始めやすい環境。地理的にも港町であるためか、多様なバックグラウンドをもつ人々が訪れては身体を休め、心を癒す風土があるのです。立命館アジア太平洋大学(APU)の設立以来、異なるバックグラウンドを持った人々がこの土地に住み続けていることもあり、市民の受容性は、「必然的」と言えるのかもしれません。
「世界平和って何だろう」
この土地に来て街に繰り出してもらえれば、ヒントを得てもらえる気がします。
KIDEAのサービス提供対象は、主に小学生。異文化コミュニケーションのスキルを身につけ、将来の日本を担う人材を育成することを目標としています。
梨佳さんは、実証実験の期間が終了した後も、KIDEAを日本国内だけでなく、世界に向けて展開していくと約束してくれました。KIDEAは100回以上の実証実験を無事に成功。利用した子どもたちの保護者からは、多くの感謝の声が届いたそうです。
「KIDEAは、子どもの力を信じている。このプラットフォームを、より拡げていきたい」そう強く語ります。
これを読んでいる皆さん。もし、「こんなサービスがあったらよかった」「子どもだったら受けてみたかった」と思われたなら、ぜひウェブサイトにアクセスしてみてください。
子どもたちの笑顔から、皆さんの心の扉を開けるヒントも、見つけられるかもしれません。
編集後記
“自分自身や友人を「信頼」し、新しい世界に希望を持とう”
世界は目まぐるしく変化し、ますます面白くなってきていますが、不確定要素もあります。私たちが様々な考え方や価値観を持っているがゆえに、それらが拮抗する国際世界では、たくさんのチャレンジをしていかなければいけません。
教育は、本来、人の基本的「権利」です。私のエピソードですが、教育を受ける場や機会に乏しい国で生まれ育った経験があり、教育制度の脆弱性により、多くの才能や能力が花開く機会が失われていくのを数多く目の当たりにしてきました。小学校1、2年生の頃は、学校に机がなかったため床の上で勉強し、雨が降り続けば、教室が完全に浸水してしまうため、学校は休校に。これは、私が経験した幼い頃の出来事ですが、今でも世界中の多くの子ども達が直面しています。
教育は、経済的に余裕がある人にのみ与えられるのではなく、学びたい人、みんなに与えられるべきもの。誰もが学ぶことができる。そのことが、より良い社会の発展に必ず繋がっていきます。
今、自分の中で確かなことは、KIDEAは世界をより良い方向に導くユニークな学習概念であるということ。「世界の平和と相互理解を促進する」という、強い使命とビジョンを持っています。日本の学生のコミュニケーション能力を高める、この実践的な異文化学習は、今後の教育のあり方を考えるうえで、とても希望のある教育概念なのです。
モザンビークの技術学校IMEPOLでプロジェクトマネージャーを務めるほか、大学ではGlobal Business Leadersのコンテンツライターを務めている。