普段とは違う場所に赴き、仕事の合間に観光を楽しむ「ワーケーション」。コロナ禍の現在、働き方のスタイルのひとつとして注目され、徐々に浸透してきました。とはいえ、実践に踏み切る企業はまだまだ少数です。
そんな中、ワーケーションに関して先進的な取り組みを行っているのが「ビッグローブ株式会社(以下、ビッグローブ)」です。ワーケーションによる健康面の効果などを科学的な計測をもとに検証・研究しています。
ビッグローブの「ワーケーション実証実験」の一環として、2021年7月7日〜9日に「TRY ONSEN WORKATION in 別府」が開催されました。東京からは9つの企業が参加。ワークショップには大分の企業も参加しています。
プログラムには、大分空港がアジア初のスペースポート(宇宙港)に選ばれ活気づいている背景から、「宇宙ビジネス」についてのワークショップも盛り込まれています。
温泉地・別府でのワーケーションは、参加者にどんな影響をもたらすのでしょうか。その様子を取材しました。
会場となった別府市「ビーコンプラザ」に集まる参加者たち。まずはみなさんの現状を数値化するための「健康チェック」が始まりました。
まずは血圧チェックから。
次に、白いキットを咥えてストレス度を測定します。唾液中のアミラーゼの量で、ストレス度合いがわかるというもの。ストレスは、0〜30でほぼなし、31〜45でややあり、46〜60であり、61以上がかなりあり、と診断するようです。
すぐに結果が見えるので、参加者たちは表示される数値に一喜一憂していました。
次は、指の先に機器をつけて血液の状態を計測です。
末梢血液の循環、自律神経バランス、血管年齢や血管の老化速度などがわかります。実年齢よりも随分若い数値が出た人、思ったより数値が悪かった人などそれぞれでした。
最後の健康チェックは、運動機能の測定です。メジャーの上を大股で歩き、体のバランスや股関節の柔軟性、脚力を測定します。
前屈で柔軟性もチェック。
温泉入浴や観光などワーケーションの過ごし方が、どんな数値の変化をもたらすのでしょうか。ビフォー・アフターが楽しみです!
健康チェックが終わったところで、ビッグローブ社長・有泉健(ありいずみ・たけし)氏よりあいさつがありました。
「私たちは“三方よし”のワーケーションを目指しています。三方とは、企業・社員・温泉地のこと。
温泉地で連泊し、社員ストレスを緩和できないか?社員のストレス軽減で、企業の健康化に貢献できないか?温泉地がさらに活発になり、観光客以外のニーズを提供できないか?これらは温泉地のワーケーションで実現できる、ということを実証したいのです。
ワーケーションの活性化を目指すには、企業の福利厚生が必要不可欠。多くの企業に協力いただきながら、ビフォー・アフターで効果を検証・実証し、数値がどのくらい改善されるかのデータをとり、一般化したいと考えています。
また、ワーケーションは思いがけない出会いの場でもあります。新たな出会いを作り、今後に生かしてもらいたいです」
これまで広告や地方創生コンサルなどに携わってきた菅野静さんは、2019年に別府へ移住。日本古来の養生法・湯治を「自分のからだとこころを見つめ直す静かな時間」として定義し、広める活動を続けています。
温泉は宇宙!
「温泉は天水」と話す菅野さん。温泉は雨が降り、それがマグマで温められ、断層を通じてミネラルを受け取って湧出してくるもの。水と自然のめぐり、大地・海・空とつながっています。改めて「温泉は、まさに宇宙!」と感じたそうです。
別府温泉の入り方&湯治の心得
別府には多くの共同温泉があり、100〜200円ほどで、多種多様な温泉を楽しめます。共同温泉は地元の人にとって、毎日通う『お風呂』。あいさつをして入れば、打ち解けられます。せっけん・タオルは持参し、浴槽のふちにはお尻をつけないというルールも紹介。
「湯治は、心と体に耳をすませ、自分自身に問いかける時間として最適です。朝は熱めの温泉で交感神経を優位にさせて体や脳を目覚めさせ、夜はぬるめで副交感神経を優位にしてよい眠りを得られます」と、湯治の基本を話した後には、入浴してはいけないケースも解説がありました。
「犬も歩けば棒にあたるくらい、人が歩けば温泉に当たるのが別府。ぜひお気に入りの温泉を見つけてください」と、参加者たちに語りかけました。
※宇宙ビジネスワークショップの詳細はこちら:https://gensen-beppu.com/2021/08/11/宇宙ビジネス/
続いては、アジア初の「宇宙港」に選ばれた大分空港に関連した講演「大分から宇宙へ 〜世界の宇宙港の最新情報とスペースポートシティ構想〜」がありました。
講師は一般社団法人スペースポートジャパン(以下、SPJ)共同創業者&理事/宇宙エバンジェリスト、青木 英剛氏。
宇宙ビジネスの全体像や宇宙港の役割、スペースポートや宇宙旅行の最新事情や、地元住民がどうビジネスに関わっていくかなど。誰もが宇宙ビジネスを自分ごととして捉えられるような内容で、参加者も真剣に聞き入っていました。
宇宙産業と私たちのつながりを実感でき、ビジネス参入のヒントとなるアイデアの種がたくさん蒔かれたようです。参加者からは「おもしろかった」「自分に何ができるか考えたい」など、前向きな感想が多く聞かれました。
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1日目のワーケーションプログラムはここまで。各自ホテルに向かい、思い思いの夜を過ごしました。
1日目、思い思いの夜を過ごしたワーケーション参加者たち。2日目の朝は9時から、再び別府市のビーコンプラザに集合です。
※宇宙ビジネスワークショップの詳細はこちら:https://gensen-beppu.com/2021/08/11/宇宙ビジネス/
「TRY ONSEN WORKATION in 別府」2日目は、宇宙ビジネスワークショップからスタート。講師はSPJ 共同創業者&理事 片山 俊大氏です。
東京や大分の企業と個人、そして大分県庁の専門チームも参画しています。ワークショップの目的は「大分スペースポートシティ構想」の進化と、「参加者(個人・社会)の目標設定」。
第一部は、異なる企業の人同士でグループになり、スペースポートシティ構想のアイデアを出し合う時間。第二部では同じ企業の人たちで集まり、「前半の議論を踏まえた事業アイデア」「自身の課題解決と事業企画の接点」「長期的に実現すること」をまとめました。
最後にはグループごとにまとめた内容を発表。SPJの青山氏・片山氏からは、宇宙ビジネスの現状や今後を踏まえたさまざまな評価がありました。
参加者たちによる宇宙ビジネスの構想は、このワークショップで始まったばかりです。これまで他人事だった宇宙産業が、大きな期待と意欲を持った自分ごとになる、そんなきっかけが生まれたようです。
ワークショップで脳みそをフル回転した後は、場所を鉄輪に移して地獄蒸しランチタイムです。別府市の鉄輪エリアは、古くから湯治場として栄えた温泉地。街のあちこちから湯けむりが立ち上る、風情あふれる景色が楽しめます。
そんな中でいただくのは、別府名物の「地獄蒸し」。温泉の噴気で食材を蒸していただく、シンプルでヘルシーな名物料理です。海鮮・肉・野菜・たまごなどなど、温泉の成分を吸い込み美味しくなった食材たちを頬張り、話に花を咲かせました。
食事を終えたら、2日目のプログラムは終了。あとは各自の自由時間です。
前日昼過ぎからの自由行動で仕事、温泉、観光……それぞれに過ごした参加者たち。最終日となる3日目のプログラムは、「健康チェック」を残すのみです。
健康チェックの結果について、一部の人に話しを聞いてみました。唾液による診断では、ストレス値が33から10に改善した人、26から5に改善した人など、たった2泊3日でもデータに現れるほどの変化も見られたようです。前屈や最大歩幅の数値も改善したという報告もありました。
後日、「ワーケーションから帰ったあと、普段なら疲れてだらけてしまうのですが、今回は朝から活動でき、久々のジムでは体の軽さを実感しました!」との感想も。トータルの正式な数値は後日発表となる予定ですが、一部の参加者にはワーケーションのよい効果があったようです。
砂湯や蒸し湯・その他の温泉も楽しんだという参加者からは、「費用を会社負担にできるのなら、年間1回はワーケーションを実施できるような福利厚生があっても良いな」という声がありました。
温泉地・別府で“三方よし”のワーケーション。温泉を通して人の交流やビジネスが生まれ、発展していく、そんな期待が膨らんだ今回の「TRY ONSEN WORKATION in 別府」でした。今後ますます温泉地でのワーケーションのデータが蓄積され、目に見える効果も実証されるでしょう。
これからの働き方のひとつ、福利厚生のひとつとしてワーケーションが認知される日は、もうすぐそこまで来ているのかもしれません。
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